第15話

『停電する家、沈黙しない家具』



本文:


今日は雨。

午後から降り出したと思ったら、雷がゴロゴロと空を引き裂き、最後には「ピカッッ……バチン!」と来た。


\ 停電である /


「うわっ!」

と誠司が叫ぶより早く、リビングのドアがガチャリと開く。


「ちょっとォ!? あたし今テレビ見てたんだけど!? 何この暗闇、ホラー演出!?」

「静かに。今は停電だ。非常時は落ち着くのが大人のたしなみだよ」

トイレのドアがやけに冷静に登場。が、すぐにその後ろから声が飛ぶ。


「誰かぁ!わたしの冷気が!溶けていく!このままだと!このままだとォォォ!」

冷蔵庫のレイさんが怯えに怯えた声をあげる。


「耐えろ、レイ!お前が崩れたら俺まで……俺まで流れてしまうッ!」

冷凍庫のドン・フリーザーが自らの氷魂を震わせながら叫ぶ。


「みんな……落ち着いて!あたしは、ちゃんと非常灯として訓練されてるわ……!」

そう言って登場した懐中電灯のライトちゃん(声だけはアイドル)。

しかし——


「きゃああああああああっっ!!誠司さんの顔が近いぃぃっ!!」

「ああもう!!お前は人を照らせる構造なのに人間苦手って何なんだよ!!」


パニックである。



台所からはガスコンロの叫び声。


「こっちは鍋の中がわやや!電気が無くても火はあるぞって?そらそうよ!でも火があったらあったで怖いのよォ!!」


ルンバがカラカラと壁にぶつかりながら最後の仕事をしに現れる。

「……清掃完了……誠司サン、最後ニ……ソックスヲ掃除……」


バチッと何かが弾け、ルンバは充電切れで沈黙した。


「おい、今ソックスて言ったよな!? なぁ!俺の足どういう認識!?」



「……こうなったら筋トレで乗り切るしかない」

筋トレマシーン・ムッキン伯爵が重々しく唸る。


「さあ誠司!この人力発電トレーニングで、停電を!筋肉で!打破するのだ!!」

「何このマッドマックスみたいな展開!?」


エアコンのえあ美さんが突然カタカタと動き出す。

「手動で風を起こす準備が整いました。筋肉は空気も冷やすのよ……」


「冷やさなくていいから!休ませて!!マジで一回落ち着こう!?」



その後、誠司はろうそくを灯し、手元にあった「停電時サバイバル入門」みたいな本を読みながら非常食を探したが、冷凍庫のドン・フリーザーが「そいつは俺の中で凍ってた子だ……許さん」と出してくれなかった。


最後はリビングのテレビ、テルオが目覚め、

「よし、今こそ時代劇の時間だな」と謎の電力で画面に立ち上がったところでブレーカーが完全に飛んだ。


「……もう、いい加減にしてくれ……」


そうつぶやいた誠司に、ベッドのクイーン=ネネ嬢が声をかけた。


「そんなあなたを、私は静かに受け入れてあげるわ。さあ、横になって——永遠におやすみなさい」


「怖っ!言い方怖っ!!」

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