夏のせい(三)

 ゆっくりと飲んでいたビールを片付けたぼくは、夏の日差しを一瞥したのち、海に入ることにした。ショルダーバックに文庫本を入れ、ジーンズの裾をまくると、海辺に向って歩きはじめた。クロックスのサンダルを履いてきたのはちょうどよかった。


 太陽の光を乱反射している海面から、目をそむけた。サングラスを持ってくればよかったなと思ったが、当初、海に来るつもりはなかったのだから仕方がなかった。

 右手を両眉のうえにかざし、太陽の光をさえぎって、下を見た。キラキラと、キラキラと海面が光っていた。

 そのときだった。さざ波の合間から、「ねえ、私を連れて行って」と声が聞こえた。

 足元を見ると、手のひらほどの大きさの青いカニがぼくを見上げていた。

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