夏のせい(二)

 海はにぎわっていた。

 ぼくは海の家でビールを買うと、水辺からすこし離れた防波堤に腰をかけて、「百年の孤独」を手に取った。ぼくはすでに単行本で「百年の孤独」を読んでおり、その冒頭があらゆる小説の中でいちばん優れていると思っていた。ぼくは本を開ける前に、その冒頭部分をそらんじてみた。それから、表紙をめくり、答え合わせをしてみると、だいたい、ぼくの記憶にまちがいはなかった。

 そういえば、借金が理由で大喧嘩をして、疎遠になっている父親に、麦焼酎のほうの「百年の孤独」を贈ったことがあった。彼は「俺はずっと孤独だった」と電話越しに言ってきたが、その物言いはずいぶんと安っぽいものにぼくには聞こえた。ぼくの父親は文学好きを自称し、晴耕雨読の生活をしたいと常々言っていたが、総じて、安っぽく見える人間であった。そしてそれは、客観的に自分を見るに、息子であるぼくにも遺伝しているようだった。

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