#7 ヘルプデスク怪談:「呪われたPC」


 どうぞ、肩の力を抜いてお聞きください。

 ああ、念のため申し上げておきますが──これは、あくまで昔話。

 内容にはかなりのフェイクが混じっております。

 全部フェイクと思っていただいても構いません。


 ****


 あれは、ずいぶん前のことでした。


「このパソコン、呪われているんです……」

 そう言って、ひとりのユーザ様がPCを抱えて現れたのです。


 聞けばそのPCは、前任者から引き継いだ物とのこと。

 前任者はしばらく前に職場を辞め、姿を消してしまったという。


「前任者がいなくなったのは、このPCのせいだ」と、冗談めかしつつも、どこか怯えておられました。


 さて、その“呪われた”というPC、電源は入るのですが……

 どうにも動きが重い。


 完全に止まるわけではありませんが、“プチフリーズ”が頻発し、

 ポインタさえ、まるで何かに引きずられるようにカクカクと動く。


 ハードウェア診断にも異常なし。

 なのに、Windowsを起動すると、とにかく遅い。

 まるで何か、見えざるものに足を引っ張られているような。


 いよいよおかしいと感じ、C:ドライブの中身を覗いてみますと──

 ……空き容量が、ほとんど残っていないのです。


「大きなファイルは入れていないし、どこに何があるのかも分からない」とユーザ様は首をかしげるばかり。


 そこで、PCをお預かりし、さらに深くフォルダをたどっていくと……

 あるのです。

「画像」と書かれた、忘れ去られたフォルダが──

 その奥に、「和」「洋」「□」と、謎めいたフォルダが並んでおりました。


 既にお気づきなられたと思います。


 もしやと思い、「洋」の扉を開いてみれば……

 そこには、数え切れぬほどの画像ファイルがびっしりと。

 しかも、現代では到底許されぬ『無修正』の数々。


「和」もまた同じ。

「□」に至っては、今となっては考えるだに恐ろしい代物。


 ──ここで私は、ふと背筋が寒くなりました。


 もし、これらが外部に漏れでもしたら……

 依頼者の役職柄、まさに一大事。

 だが、これをどうするべきか。

 前任者の忘れ物か、現ユーザ様の秘密なのか──

 真相は、ヒラのヘルプデスクにわかろうはずがありません。


 私は悩んだ末、見なかったことにしました。

 そのフォルダを圧縮し、空き容量を確保。


 ……すると、あれほど重かったPCは嘘のように快調に。


 翌日、PCをユーザ様にお渡ししました。

「呪いを祓ってもらいました!」と、笑顔でお礼を言ってくださいました。


 ここまでは、良かったのです。


 少し後で、罪悪感に耐えきれなくなった私は、上長へ報告しました。

 でも上長はこう言いました。


「そんな人、いないよ」


 本当に『呪い』だったのか、

 そのユーザ様はどうなったのか──

 直後に異動となった私には、もう知るすべはありません。



 ……今夜はどうぞ、C:ドライブの残り容量に、くれぐれもお気をつけて。




 動かぬは 見えぬ呪いか 古き箱

 開けて確認 ドライブの空き


 


 次回は、「音」。



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