【番外編1】追放された者たちの末路

 南の果てにある、孤島に近い修道院。それが、元王太子レオナルドと、元聖女アリアが送られた場所だった。そこでの生活は、彼らが想像していた「反省の場」などという生易しいものではなかった。


 レオナルドは、元王太子という過去の栄光とプライドを、いつまでも捨てきれずにいた。

「俺が誰だか分かっているのか!こんな、土いじりや掃除など、俺がすることではない!」

 彼は、修道院の日課である労働をことごとく拒否しては、他の修道士たちとトラブルを起こした。だが、ここでは誰も彼のことを「殿下」とは呼ばない。ただの、怠け者で口だけは達者な厄介者だ。彼の惨めな矜持は、日々の労働と、周囲からの冷たい視線によって、少しずつ、しかし確実に削り取られていった。


 一方のアリアは、もっと悲惨だった。

 特別な力も、聖女という肩書きも、そしてちやほやしてくれる取り巻きも失った彼女は、ただの、世間知らずでわがままな少女でしかなかった。美貌も、質素な修道服と栄養の偏った食事、そして何より心の荒みによって、急速に失われていく。

「なんで私がこんな目に!全部あいつのせいよ!レオナルドなんて馬鹿を信じたから!」

「黙れ!元はと言えば、お前が偽物の聖女だったからだろうが!」

 互いの存在が、自分の不幸の全ての原因だと信じて疑わない二人は、顔を合わせれば罵り合うばかり。かつての甘い関係は見る影もなく、そこには醜い憎悪だけが渦巻いていた。


 やがて、そんな日々に耐えきれなくなったアリアは、ある夜、修道院を脱走した。

 しかし、世間は彼女が思っていたほど甘くはなかった。働く術も、生きる知恵も持たない彼女は、あっという間に路頭に迷う。日々の糧を得るために、彼女はかつての自分が最も軽蔑していたような、薄汚い仕事にも手を染めなければならなかった。


 レオナルドは、アリアがいなくなった後も、何も変わらなかった。変われなかった。彼はただ、無気力に、自分が王として国を治めるという、決して叶うことのない栄光の日々を夢想しながら、与えられた黒パンをかじるだけの存在となった。


 彼らが、自らの犯した過ちの大きさと、その愚かさを真に悔いる日は、おそらく、永遠にやって来ることはないだろう。それこそが、神が彼らに与えた、最も重い罰なのかもしれなかった。

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