エピローグ:常春の楽園で

 あの祝宴から、五年が過ぎた。

 かつて「冬の領地」と呼ばれ、人々から見捨てられていたこの土地は、今や「常春の楽園」と呼ばれ、王国で最も人々が暮らしたいと願う、豊かで美しい場所になっていた。


「母様、見て!こんなに大きなお花!」

「こら、走ると転ぶぞ」


 私、イザベラとゼノの間には、二人の子供が生まれていた。ゼノにそっくりな黒髪と、私によく似た青い瞳を持つ、やんちゃで元気な男の子。そして、ふわふわの黒髪と、ゼノと同じ灰色の瞳を持つ、花のように愛らしい女の子。


 私は、母として、妻として、そしてこの広大な領地の女主人として、目まぐるしくも充実した毎日を送っている。

 ゼノは、相変わらず威厳ある領主として領地を治めているが、ひとたび家に帰れば、子供たちにはめっぽう甘い、優しい父親の顔になる。


 今日は久しぶりに、家族四人で、かつて私たちが温泉を発見したあの丘の上までピクニックに来ていた。

 眼下には、見渡す限りの緑の畑、活気あふれる街並み、そして遠くには湯けむりを上げる温泉郷が見える。全てが、私たちがあの日から、領民たちと共に築き上げてきたものだ。

 穏やかな風が、花々の甘い香りを運んでくる。


「イザベラ」

 隣に座るゼノが、私の手をそっと握った。ごつごつとして、大きくて、温かい手。

 その温もりは、私たちが初めて出会ったあの凍えるような日も、今この瞬間も、そしてきっと、これからも、決して変わることはないだろう。


「幸せですわ、ゼノ様」

「ああ、俺もだ」


 絶望の淵から始まった私の二度目の人生は、最高のパートナーと、愛する家族と、かけがえのない宝物に囲まれて、最高のハッピーエンドを迎えた。


 氷の辺境伯と春の女神。

 私たちの愛と功績は、この常春の楽園で、一つの伝説として、末永く、末永く、語り継がれていく。

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