【第10章】偽りの光、断罪の刻
戦いが長引き、思うように城を落とせないことに、王太子レオナルドの苛立ちは頂点に達していた。
「ええい!役立たずどもめ!こうなれば、アリア!お前の力で、あの忌々しい城壁ごと敵を吹き飛ばしてしまえ!」
彼は、本陣の豪華な天幕の中で待機させていた聖女アリアに、無茶な命令を下した。戦況を打開するための「奇跡」を要求したのだ。
しかし、その言葉を聞いたアリアの顔は、血の気が引いて真っ青になっていた。
「そ、それは……もう、そんな力は……」
「何を言っている!お前は聖女だろうが!さっさとやれ!」
レオナルドに恫喝され、アリアは震える足で祭壇へと進み出た。
彼女は、残された最後の、本当に僅かな魔力を振り絞り、天に向かって必死に祈りを捧げ始めた。
「聖なる光よ、我が声に応え、敵を滅ぼしたまえ……!」
だが、彼女の胸元でかろうじて輝きを保っていたアーティファクト『太陽の涙』は、その祈りに応えることはなかった。
天から降り注いだのは、奇跡の光などではない。まるで最後の残り火が消えるかのような、空々しく、弱々しい光が瞬いただけ。
そして、次の瞬間。
パリン、と乾いた音が戦場に響いた。
アリアの胸元で輝いていたペンダントが、ひび割れ、砕け散ったのだ。
偽りの力が完全に失われ、ただの少女に戻ったアリア。
その信じがたい光景を目の当たりにした王太子軍の兵士たちは、自分たちが何のために戦っていたのかを悟り、愕然とした。
「うそだろ……聖女様の力が……」
「俺たちは、偽物のために命を懸けていたのか!」
軍の統制は、一瞬にして完全に崩壊した。ある者は武器を捨てて座り込み、ある者は我先にと戦場から逃げ出し始めた。もはや、戦いは終わったも同然だった。
「ありえない!ありえない!これは何かの間違いだ!」
錯乱して叫び続けるレオナルド。腰を抜かして、ただ泣きじゃくるアリア。
その無様な二人の前に、新たな軍勢が静かに姿を現した。それは、国王陛下直属の近衛騎士団だった。
事態の報告を受け、自ら軍を率いて駆け付けた国王は、全てを察した。彼は、狂ったように叫ぶ自分の愚かな息子と、みすぼらしい少女の姿を冷ややかに見下ろすと、厳かに命じた。
「王太子レオナルド、および、聖女を騙った娘アリアを捕縛せよ」
そして、国王は自ら馬を降りると、城門から出てきたゼノと私の前まで進み出て、深く、深く、そのこうべを垂れた。
「ゼノ・フォン・シュヴァルツ辺境伯、そしてイザベラ夫人。愚かな息子の非礼、この国の王として、心から詫びる。そして……この国を救ってくれたこと、感謝する」
冬の領地に、静かな勝利の鐘が鳴り響いた。
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