サブスク美女
ちびまるフォイ
あなたの価値は周囲の評価で決まる?
「アルバイト? ダメダメ。君みたいに華のない人間は採用できないよ」
「そんな! 都会に出て、カフェで働くのに憧れてたのに!」
「そういう人多いんだよ。君のようなおのぼりさんが
カフェのカウンターに立ってる姿を想像してみなよ。
イモっぽいカフェだなとおしゃれな意識高い系が来てくれない」
「ひどい!! 何もかも見た目ですか!!」
「カフェってのはイメージも大切なんだよ」
憧れのカフェバイトがこんなにも激戦だと思わなかった。
何度も受けているうちに自信を失くして、日がな1日スマホを触るばかり。
「華がない……。なんだよ華って……」
街を歩く人達はみんなキラキラで垢抜けている気がする。
同じような服を着ているのに、なぜ自分だけ華がないのか。
「あれ……?」
そんなとき広告がスマホの画面に流れた。
人類の動体視力では押せっこない「
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†あなたに美女のパワーを†
美女サブスク
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ギラギラの広告に目を奪われて、思わず契約してしまった。
1ヶ月後、待ち合わせの場所に美女数人がやってきた。
「き、君たちが美女サブスクの美女……?」
「はい」
「よろしくお願いします」
「めっちゃ美人……」
すれ違えば振り返ってしまうような美女が何人も。
サブスク契約したことで、それらが自分の前後左右に配置される。
まるで大統領のSPのような配置。
「なんてパラダイスなんだ! 契約してよかった!」
「あははは」
「おもしろ~~い」
美女たちは文脈とは無関係の愛想笑いをしてくれる。
なぜか自分の承認欲求が満たされる気がした。
自分に好意があるのかもと勘違いし
左右の美女の胸に手をあてがおうとしたとき。
「あそれは契約違反です」
「え」
「サブスク契約では恋愛および肉体関係。
また特定箇所への接触やその交渉の一切が禁じられています」
「もし違反すると……?」
「熊よけの催涙スプレーを、おしりに突っ込みます」
「人でなくなりそうなペナルティ……」
「契約上、腕を組むとかは許されていますし
私達もそれを積極的にすることを指示されています」
「はべらせるだけってことね。それでも十分さ」
キラキラの美女をはべらせて、自分に密着させたりする。
行き交う男たちは悔しそうにハンカチを噛み締めていた。
それを見ると、まるで自分がすごい人間のような気がしてくる。
少なくとも悔しがる人間よりは優れているのだろう。
サブスク美女を始めてからは周囲の評価が一気に変わった。
友達は鼻の下を伸ばしながら連絡を取ってくる。
「前に街でお前を見かけたんだけど、なんだよあの美女は!?」
「ん? まあ……コレかな」
小指を立ててみせた。この所作ずっとやってみたかった。
「すげええ! なあ、紹介してくれよ!」
「ダメだね。彼女たちは意識が高いから、
一定ランクの人間としか付き合わないんDA」
もちろん嘘である。
単に自分がサブスク契約しているだけだが。
「いいなぁ~~……俺も美女に囲まれたい……」
「だったら、自分を磨くこった。
女を追っているうちは手に入らない。
女に追わせるような男になるってことだZE」
「これが……美女にモテる男なのかっ……!!」
友達をダシに自分がどれだけすごいかを自慢するのが気持ちよかった。
あれだけ落とされていたカフェのバイトもあっさり決まる。
「君、前に美女に囲まれていた人だよね?」
「はい。そうです。美女をこれでもかと脇に置く男です」
「採用だ! 君のように華のある人間を探していたんだ!!」
「はっはっは。くるしゅうないぞ」
もはや主従逆転。
美女をはべらせるサブスクだけでこんなに人生が好転するとは思わなかった。
もうこのサブスクはやめられない。
1ヶ月後、また別の美女があてがわれる。
「あ、毎月リセットされるんだ」
「はい。同じ美女をはべらせるよりも、一定周期で切り替わるほうが
男性ステータスが高く見られるようです」
「たしかに!!」
何人もの美女をとっかえひっかえではべらせられるなんて。
まさに王様そのものじゃないか。
美女サブスクに登録して本当に良かった。
それからしばらくして。
「そろそろ、ちゃんとした恋愛もしたいなぁ……」
美女に囲まれていても、それは彼女ではない。
自分と感動を共有してくれる異性が欲しくなる恋活パーティに参加した。
いくつものグループの女性が自分の前に座る。
「〇〇です、よろしくお願いします」
「ああ、どうも。俺たかし。最近思うんだよねぇ、女はーーだなって。
~~で、ーーで、ーーだから、~~じゃないといけない。そうだろ?」
「あはは……」
何人もの女性が入れ替わり立ち代わりで来てくれたが、
その顔は全部同じで"こいつは無いな"と表情で訴えてきた。
もちろん誰ともいい感じには慣れず、
そのパーティに参加した非モテ男性グループで愚痴会となった。
「なんでモテないんだぁぁあ!」
「たかし君、あれはなかったよ」
「あれ?」
「なんかすごい偉そうだったもん」
「自分では普通のつもりだったんだけど……」
「いや、なんか俺様感がすごかったよ。あれは引く」
「そ、そうだったんだ……」
これまで自覚したことはなかった。
ずっと自分は謙虚な性格だとさえ思っていた。
しかし美女サブスクに契約して、自分は少しずつ変異していった。
どんなにしょうもない自分語りですら、
美女たちは契約通り優しい愛想笑いで答えてくれる。
まるで自分の話が面白いもののように錯覚してしまう。
それが日常となり、いつしか自分勝手に話だけする
そんな自分というモンスターを生み出してしまった。
「こ……このままじゃダメだ……。
このままだと俺はお金を介すことでした
人付き合いできない寂しい人になってしまう!!」
自分の葬式のときも事前にお金を渡した人だけが来る。
そんな最悪な人生の走馬灯が脳裏をよぎった。
すぐにスマホで美女サブスクの解約を決めた。
「どこだよ解約……。なんで見つからないんだ……!!」
わかりにくく、複雑な解約手続きをなんとか探し当てる。
このまま続けていたら自分は駄目になる。
覚悟を決めて解約ボタンを押した。
最後に美女サブスクはひとつの広告を出した。
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待ってください!
あなたにだけ特別な『プレミアム美女』サービスのご案内です!
このまま解約してしまうと受けられません!!
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「え……」
【ガチで解約】のボタンにかけた指が離れる。
そしてその指は「詳細を確認する」のボタンへと誘導された。
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プレミアム美女サービスは、さらにパワーアップ!
これまではキレイなだけの美女をあてがっていました。
プレミアムでは「あなたを知り」「あなたを愛する」
心からあなたを知っている人を厳選します!
もう表面だけの付き合いはありません!
サブスク登録者のうち、一番あなたに詳しい人があなたのそばに!
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「なん……だと……」
サブスクの月額料金はこれまでよりも高くなる。
それをおぎなっても余りある魅力。
これまでの美女のように乾いた愛想笑いじゃない。
本当に心から自分を知って、自分を愛する人が来てくれる。
そんなの幸せすぎる。
「契約するしか、ないだろーー!!!」
解約はどこへやら。
プレミアム美女サービスに登録した。
数日後、待ち合わせ場所に向かう。
「自分を一番知っている人があてがわれるのか。
ああ、どんな人なんだろう。楽しみだなぁ」
気持ちが高揚しすぎて昨日は眠れなかった。
ワクワクしていると、スマホに通知が飛んできた。
【女性が到着しました。】
「こんにちは!!」
ワクワクが抑えられず、顔を確認する前に声が出た。
相手はサブスク契約者の中で、もっとも自分を知り、愛している人だった。
「たかし!?」
「か、母さん……!」
母さんがサブスク登録している理由は怖くて尋ねられなかった。
サブスク美女 ちびまるフォイ @firestorage
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