幕間.沈黙の丘 白日

 少年は夢を見る。

 それは幼き日々の残照。

 新緑の季節を目前とした、或る日の記憶。

 少年はその日、父の亡骸を前にした。

 刃に鳩尾みぞおちを裂かれ、背中は血に濡れている。

 抱き締めた身体に熱は無く、ただ掠れゆく吐息が、暗闇に小さく、小さく木霊こだまする。

 腕に抱いた憧れが消えゆく様を、少年は見守る事しか出来なかったのだ。

『強く在れ。正しく在れ』

 憧れはいつか、少年の頭を撫でながらそう言った。

 それは少年の内に強く、深く刻み込まれた。

 そうして、彼の生き方は決定した。

 強く、強く、強く。正しく在る為に。

 少年は無心で駆けた。

 不要な物を排し、必要のみを求め、ただ強く。

 その果てに、辿り着いたのは屍山血河しざんけつが

 白日に曝さらされた惨劇の舞台。

 慟哭が少年の胸の奥深くから響き、全身を震わせる。

 朱色の水辺にひたされたその身に、土色の肉片が纏わり付く。

 振り払う、纏わり付く。

 蹴り飛ばす、纏わり付く。

 手を伸ばす、纏わり付く。

 纏わり付く、纏わり付く、纏わり付く。

 それらは少年を追い立てるように、決して逃すまいと意思を持って、何処までも、何処までも纏わり付く。

 やがて少年はひざまずき、叫んだ。

「      」

 叫ぶ。

「      」

 何度も、何度も叫ぶ。

 その声が音となる事は無かった。

 それは夢。少年の夢。誰かの夢の中、地続きの悪夢。

 永遠に続くとも思えた時の狭間で、少年はいつまでも叫び続けた。

「      」

「      」

「      」

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