私はささくれ
夕緋
私はささくれ
部活を辞めたい気持ちが胸の内にもやもやと広がっている。
仲間が出来ると期待して入ったギター部は、少人数ながらコンクールでの入賞を目指していた。最初の内は楽しかった。話が合うだけで気分が高揚した。中学の頃は周りにギターをやっている子もいなくて、寂しい思いをしていたから。
でも体験入部期間を経て、本格的な練習に入ると部活の空気は一変した。先輩たちは去年、相当悔しい思いをしたらしい。今年こそは、と気合が入るあまり後輩への言葉は鋭くなっていった。
練習が本格化しても、しばらくは今まで練習してきた分で間に合った。でも同期たちの実力が上がっていくと、私にも鋭い言葉が飛ぶことが増えて来た。
こんな思いをしたくて部活に入ったわけじゃなかった。
もちろん、先輩からの注意が全て嫌なわけじゃない。むしろ入部した時には先輩や顧問の先生から学べるものは全部受け取っていこうと思っていた。もっと上手にギターを弾きたい。その気持ちに嘘はないから。
でも、私はもっと和気あいあいとした空気を想像していた。それこそ体験入部期間のような。ギター練習のあるあるなんかを話して、良かったところを褒め合って、たまに合奏して楽しむ。笑い合える部活に入りたかったのであって、痛いほどに切磋琢磨したいわけではなかった。
けれど、そんなことは誰にも言えなかった。
先輩たちはもちろん、同期もみんな熱が移ったようで、帰り道でさえ「もっと上手くなりたい」という話で持ち切りだった。おまけにギター経験者の私に一目置いてくれて、尊敬の眼差しを感じるのが辛い。
自分が取るに足らない存在で、いてもいなくても良かったらすぐに辞められたのに。
ギターの練習をしてきたことを後悔しそうになるなんて思わなかった。
『ささくれだつ』という表現があるけれど、どちらかというと今の私はささくれそのものだ。
元は指を形成する一つだったのに、今はめくれて私だけ違う方を向いている。”少人数の合奏は1人減るだけで全然違うから迷惑をかけたくない”という辛うじて残った親切心とも言えない皮一枚で繋がっていて、引っ張ったら簡単に取れてしまう。私はささくれを剥く時の痛みを感じたくないだけだ。
コンクールが終わったら辞めようかな。そしたらあまり痛みを感じずに離れることが出来る気がする。それまでの2か月をどうやり過ごすかは分からないけれど。案外、突然ブチ切れて部室を後にしたりして。
……そんなことが本当に出来たなら、ささくれになんてなっていないけれど。
痛みも流れる血も気にしないことが出来るなら、私は皮一枚で繋がってなんかいない。
仲間を失ってまた一人で練習するのが嫌なのも私の正直な気持ちだ。
せめて、本当に音を楽しむ場所であればもう少し耐えられそうなのに。
勝つための音楽は、どうも苦手だ。
私はささくれ 夕緋 @yuhi_333
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます