2.『アイアンマン』という完璧なヒーロー誕生物語

 2008年に公開された『アイアンマン』は、人気ロックバンドAC/DCの ”Back in Black” が流れる中、2台のハンヴィー米軍車両が砂煙をあげながらアフガニスタンの荒野を走っているシーンから始まる。


 トニー・スタークは車内でウイスキーのロックグラスを片手に、護衛の兵士たちに軽口を叩く。はじめは遠慮していた兵士たちだったが、好奇心に負けてトニーと会話をし始める。

 うち一人の兵士から「ツーショット写真撮ってほしい」と頼まれ、トニーは快諾する。ピースをして隣に寄り添った兵士に向かって、「ピースか、平和になったら、わが社は廃業だ」とブラックジョークを飛ばした。


 シャッターを押す瞬間、突如轟音が鳴り響き、テロリストに襲撃される。兵士たちは次々と倒れ、車からなんとか脱出したトニーだったが、彼の前に一発のロケットミサイルが飛んでくる。

 地面に刺さったミサイルのロゴにはこう書かれていた。


STARK INDUSTRIESスターク・インダストリーズ


 彼は自らの会社が作ったロケットミサイルの爆風で負傷し、意識を失い、そしてテロリストに拉致されたところで冒頭シーンが終わる。


 ここまでで開始4分。しびれる。


 この4分間で、トニーは高慢ちきで嫌な奴だが、なぜか人を虜にする魅力があり、「自分は特別な人間だから何をしても許される」という不遜な態度が描かれる。

 そして、彼が兵器製造業を生業とし、「死の商人だ」と自らを蔑称で表現するくせに、「アメリカ国民を守る」という大義名分で覆い隠し、戦争が及ぼす害を見ていない。

 しかし、自分の作った兵器が悪用され、米軍兵士がそれで傷つけられる様子、自らも大けがをして、「自分が間違っていた」ことを目の当たりにするわけだ。


 たった4分間で、『アイアンマン』とは、自らの罪を理解したトニー・スタークがその罪と向き合い、世界へ贖罪する物語であることが示唆されている。


 このあと、拉致されたトニーは、テロリストから「ジェリコ(トニーの開発した自動追尾型のクラスター爆弾)を作るように」と強要される。

 自分の作った兵器が悪用されている事実と自らの命も風前の灯火であるトニーは、思考停止でうなだれてしまう。

 そこにトニーの通訳として、同じく拉致されていたインセン医師は「彼らにジェリコを渡してはならない。貴方は天才なのだから、天才としての責任を果たすべきだ」と発破をかけた。

 かくして、トニーは立ち上がる。インセン医師と二人で力を合わせジェリコ製造に見せかけて、脱出するためのボディアーマー(Mark1)の製造を始めるのだった。


 Mark1を身にまとい命からがら脱出し、帰国したトニーはすぐに記者会見を行う。

「スターク・インダストリーズは兵器製造を中止する」と。

 この後、トニーは秘密裏にMark1を改良したパワードスーツ開発を始める。

 開発→テスト→失敗→改良を重ね、試作型のスーツであるMark2、そして、一番有名なアイアンマンの姿であるMark3が完成した。


 このMark3をまとったトニーは、世界中を飛び回って自社の製品を悪用する組織を壊滅していく。

 正体がトニーだと知らない民衆は、彼を「アイアンマン」と呼んで、まるで正義のヒーローのように称え始めた。

「アイアンマン」なんて名前はダサすぎるといって文句を垂れるトニーだったが、その表情はまんざらでもない。


 ラスボスとの戦いをなんとか勝利したトニーは、身内でさえ彼が開発したものを悪用し、ひたすらに私腹を肥やす悪者たちがいることを痛感し、「私の技術を正しく使用できるのは自分しかいない」と、パワードスーツは米軍へ提供しないことを決意する。


 そして、ラストの記者会見シーンだ。


「アイアンマンの正体は誰なんですか?」

 と記者から質問が飛んだ。


 トニーは一瞬悩んだ後、こう答える。


 " I am Iron-Man.(私がアイアンマンだ)"


 まさにヒーロー誕生の瞬間だ。『アイアンマン』は語りつくせないほどに本当にカッコいい最高のアメコミ映画なので、ぜひともご自身の目で確かめてほしい!!

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