3. 罪と贖いの天秤
「いくら人を救っても、今までに犯した罪との天秤は釣り合わない」
ブラックウィドウことナターシャの台詞だ。ナターシャは元は
トニー・スタークもこの葛藤と対峙していく。
トニーは最初の『アベンジャーズ』の戦いで、最後に「勝てる見込みのない強大な力を持つ黒幕(サノス)」の存在に気が付く。この「不安」はトニーの精神を蝕んでいく。
これにより『アイアンマン3』では、憑りつかれたようにアイアンマンのスーツを改良する不眠症となったトニーの姿が描かれる。
一旦はアイアンマンを引退することでその不安を克服したが、次の『エイジ・オブ・ウルトロン』では精神を操るマインドストーンの力によって、サノスへの不安が再発し、より増幅されてしまう。
この時、トニーはサノスへの対抗策を考える過程で、ウルトロンという人類の脅威となる人工知能を生み出してしまい、アベンジャーズはなんとかウルトロンを抑え込むが、最終的にソコヴィアという街が一つ消える結果となる。
次の作品である『シビル・ウォー』の冒頭で、トニーは慈善事業の発表をする。歓喜に包まれるステージから降りたトニーの前に、一人の女性が現れる。彼女はソコヴィアで息子を亡くしたという。
そして、トニーが今後どんなに償いをしたところで、罪は消えないことを突き付けて、彼女は消える。
また一方で、街の消滅という甚大な結果を招いてしまったアベンジャーズのメンバーは、「国連から要請された時のみ出動すべきだ」とする通称ソコヴィア協定への同意を迫られていた。
「自らの正義に従って、自らの責任で、その力を行使すべきだ」とするキャプテン・アメリカことスティーブと、それとは反対に「我々は第三者による監視を受けるべきだ」とすっかり自分の判断力に自信を喪失していたトニーは意見が対立し、アベンジャーズは分裂の危機を迎える。
話が前後してしまうが、トニーの両親は交通事故死だとされていたが、実はウインターソルジャーと呼ばれる敵に殺されており、ウインターソルジャーの正体はスティーブの親友であるバッキーで、彼は敵側に洗脳されていた。
この事実は、一番最悪な場面で露呈してしまい、トニーとスティーブは完全に決裂し、別々の道を歩む結果となる。
トニーは自らも両親を殺したウインターソルジャーを許せず、その犯人を庇うスティーブも許せないことを自覚することによって、ソコヴィアで息子を亡くした女性の気持ちを本当の意味で理解し、打ちひしがれるのだった。
さて、敵であるサノスは順調に自らの計画を進めており、地球へと降り立つ。
ヒーローたちは各自奮闘するが、足並みが揃わず、最強枠のヒーローたちも参戦が遅れてしまい敗戦。
ついに、サノスは世界を変える力を手に入れてしまう。
これにより、宇宙全域で生物たちの半分が消えることになる。半分は無作為に選ばれ、ヒーローたちも次々と塵に消えていく。トニーもあまりにも大きすぎる絶望に打ちのめされるのだった。
それから五年、完全にヒーローを引退し、隠遁生活を送るトニー。ペッパーとの間に娘も生まれ、彼はいわゆる普通の幸せを手に入れていた。
そこに世界を元に戻せるかもしれない糸口を見つけたハルクたちが訪ねてくる。最初は取り合わないトニーだったが、ペッパーから「私たちが誰も欠けなかったのは幸運なだけ。他の人達も助けてあげて」と諭される。
その夜、アイスを食べるために、こっそり寝室から抜け出してきた娘から”
このシーンはこれまで22作品もMCUを追ってきたファンには涙なしでは見れないシーンだ。
トニーは何度も何度も「自分が良かれと思って何かすることで、世界がもっと悪くなる」という経験をしている。
これは彼のモデルとしてオッペンハイマー博士の要素が盛り込まれたことに起因しているのだろう。
その時は最善だと思って原爆を完成させたオッペンハイマー博士は、のちに広島と長崎の惨状を知り、自分が地球を壊す力を人類に与えたことを悔恨している。
※科学力と平和について徹底的に追求したアイアンマンを演じ終えたRDJが、映画『オッペンハイマー』で水爆推進者だったルイス・ストロースを演じアカデミー賞の助演男優賞を受賞する流れは運命だったのかもしれない。
かくして、トニーは自分の罪と贖いの天秤が釣り合わないことを理解しながらも、サノスとの最終決戦へと準備を始めるのだった。
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