第14話 族長襲名


翌朝、朝霧が立ち込める古砦跡に、オークたちの歓声が響いた。敵が撤退した際に置き去りにした荷駄や武器が、中庭や通路に散乱している。剣は柄に泥と血が乾き、弓は張りが失われかけていたが、手入れをすればまだ十分使える。鎧や胸当ては擦り傷や凹みがあるが、防具として価値は残っている。加えて、数十頭の軍馬は鼻を鳴らし、蹄で地面を踏み鳴らしていた。オークたちは雄叫びを上げながら、それぞれ戦利品を手に取り、互いに分配を始める。


「こいつは俺のだ!」「見ろよこの弓、装飾されてるぜ!」

「おお!刃毀れもしてねぇ新品じゃねえか!この短剣は俺のな!」


小さな争いも起きるが、それも喜びの表れだった。血と泥にまみれた戦士たちは、戦利品の山を崇めるように扱い、互いに肩を叩きながら笑い合う。馬に跨る者、剣を振って乾いた音を確かめる者、仲間に分け与える者――それは生き残った者たちだけが享受できる特権だった。


その中で、バルドは静かに歩を進めていた。金色の瞳が戦利品の中から価値を冷静に見極める。武器や食料は部隊の戦力を増強する重要な資源であり、手に入った馬は移動力と戦術の幅を広げる――すべて次の戦場での勝利のための布石だ。


背後でカツカツと響く杖の音。


「バルド……よくぞ敵を退けてくれた!」


振り向くと、そこには年老いた族長の姿があった。顔の皺に疲労が刻まれているが、目はまだ鋭く光る。戦場での勇敢さ、冷徹な指揮、そして何よりも仲間を率いる力を見届けた老族長は、微かに笑みを浮かべながら歩み寄る。


バルドは少しだけ肩を緩め、低く頭を下げる。

「……族長」


杖を地面に置き、バルドの肩に手を置く老族長。息を整えながら、低く語り始めた。


「……バルド、わしも長くはない。この通り、手足も満足に動かん」

バルドは無言で頷く。族長の目には焦りや不安ではなく、決意が宿っていた。


「この砦に移り住み、数多くの同胞を匿って来たが、胸に浮かぶのは故郷の地だった。老いたわが身では人族に占領された故郷の地を奪還することも叶うまい。だが、お前は違う。お前は……自由だバルド。冷静に、そして恐れず仲間を導く――戦の才、戦略の眼、それらすべてが、わしの目を通しても明らかだった。若き日の“陛下”のように」


バルドは視線を伏せたまま、握った拳を緩めない。


「だからこそ……お前に『ガル』士族族長の座を託す。わしの代わりに、この部族を、そして残る戦士たちを導いてくれないか?」

族長の声には重みがあり、しかし同時に安堵も滲む。長年の戦士としての誇りを、信頼する後継者へ託す覚悟が伝わる。


「族長……」

バルドはようやく口を開き、低く答えた。

「承った 。俺が……このガル部族を率いる」


老族長は微かに頷き、杖をつきながら満足げに笑った。

「ほっほっほ……ようやく荷が下りた。それでこそ、わしの選んだ者よ」


族長の言葉に、周囲のオークたちも次第にざわめき始める。


「お!新たな族長の誕生か!?」

「バルドなら異論はねぇな!」

「ガハハハ、俺たちも負けねぇぞ!」


周囲のオークたちの歓声が一層大きくなった。戦利品を手にして駆け回る者、互いに拳を突き合わせて喜ぶ者、勝利の余韻に浸る者――全員の視線が、黒き新族長バルドの背中に集中する。


バルドはその視線を受け、深く呼吸を整えた。


「聞け!」


その声は低く、だが鋼のように重く響く。戦士たちは無意識に背筋を伸ばし、息を呑む。


「俺は、族長の意志を継ぐ。族長が守り続けた誇りと夢――故郷の土を、我らの力で再び踏める日を必ず迎える!礼儀の知らない占領者どもを鏖殺する!」


戦士たちの間にざわめきが走る。金色の瞳が全員を射抜くように光り、戦士たちの胸に熱いものが流れ込む。この砦に流れるしかなかった誰もが、心の片隅で願っていた不可能。夢のまた夢。“故郷の奪還”それをこの男はやると言い切った。


「その日まで、俺は人肉以外を口にせぬ! 腹を満たすものは、敵兵の嘆きと絶望のみだ!」


儀礼刀を天に掲げるバルドの姿は、戦場の嵐をも凌ぐ威圧を帯びていた。


の戦士たちよ! 剣を掲げよ!!次の戦場が我らを呼んでいる!」


「うおおおおおお!!!!」


戦士たちは声を合わせ、剣を振り上げて応える。砦跡に響く轟きは、勝利と決意の象徴となる。


霧と汗、泥の匂いが混ざる戦場は、一瞬にして熱狂と忠誠の空気に染まった。戦士たちの瞳に、揺るぎない信頼と族長への決意が宿る。


新族長の誕生は、人間社会への新たな脅威となるだろう。



──── STATUS ────


【名前】バルド・ガル


【種族】オーク・ストラテジスト


【称号】《黒》《人喰い》《族長》

└ オークの統率者階級。長い戦いの中で複数の進化をした個体が多く、その討伐難度は非常に高い。


【スキル】《指揮》《鷹の目》 


【所持品】儀礼刀/戦利品の武器・防具/軍馬14頭  


【部隊構成】ハイ・オーク1/オーク・ソルジャー25

/オーク・アーチャー20/オーク・アサシン4 通常オーク140


◇ ガル族長 

└オークの七士族のひとつ、ガルの族長。優れた戦士だけがその座に就くことができる。承認されるには前任者を決闘で殺害するか、勇気を示す必要がある。


◇オルク

└古い言葉のオーク。

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