第6話:袁紹、挙兵
洛陽での日々は、呂布にとって戸惑いの連続だった。董卓は日に日に横暴さを増し、私腹を肥やすことにしか興味がないようだった。彼の命令で、罪なき人々が捕らえられ、財産が奪われる光景を目の当たりにするたび、呂布の心は締め付けられた。献帝との出会いで芽生えた「この国を、この人を守る」という決意と、目の前の現実との乖離に、呂布は苦しんだ。
そんな中、一つの大きな報が洛陽に届いた。
「袁紹(えんしょう)が、反董卓の兵を挙げた!」
その報は、凍てついた洛陽の空気を切り裂くように響き渡った。袁紹は、名門中の名門、袁家の当主であり、その影響力は絶大だった。彼に呼応するように、各地の群雄たちが次々と兵を挙げ、董卓打倒の旗を掲げて集結し始めたという。
董卓の屋敷内では、この報に慌ただしい空気が流れていた。李儒は冷静な表情で今後の策を練り、李粛は困惑した様子で眉をひそめている。呂布もその中にいた。
「董卓様…なぜ、こんなに戦うのですか? もう、戦はたくさんでしょう?」
呂布は、意を決して董卓に問いかけた。彼の口から再び「平和」という言葉が聞きたかった。人々が苦しむ姿を見るのは、もう嫌だった。
董卓は呂布をちらりと見やり、ふっと笑った。その笑みには、以前のような優しさはなく、どこか冷たい響きがあった。
「何を言っている、呂布よ。これは戦ではない。乱れを鎮めるための、必要な掃除だ。あの者どもは、わしに逆らい、この天下をさらに乱そうとする愚か者ども。奴らを討ち滅ぼせば、真の平和が訪れるのだ」
董卓の言葉は、呂布の疑問をはぐらかすようだった。彼の言う「平和」は、どうにも呂布の考える「平和」とは違う気がした。彼の瞳の奥には、光ではなく、ただ強い力が宿っているように見えた。
それでも、董卓は呂布にとって唯一の、そして強大な「保護者」であった。彼の言葉には、抗いようのない響きがあった。呂布の心は葛藤した。このまま董卓に従って、本当に平和は訪れるのだろうか? それとも、彼の言うように、これが平和への唯一の道なのだろうか?
董卓は、そんな呂布の迷いを見透かしたように、彼女の小さな肩に手を置いた。
「呂布よ。お前こそが、この乱世を終わらせる切り札なのだ。お前がいれば、どんな敵も恐るるに足らぬ。お前が皆を守るのだ。信じろ、そして、突き進むが良い」
その言葉は、まるで魔法のように、呂布の心に再び使命感を呼び起こした。自分は董卓の道具ではない。自分は「皆を守る」ために、この力を使うのだ。そう、強く言い聞かせた。
反董卓連合軍の結成。それは、乱世の本格的な幕開けを告げるものだった。董卓は呂布を先鋒とし、連合軍を迎え撃つ準備を進める。呂布は、与えられた使命を全うするため、方天画戟を固く握りしめた。彼女の小さな体には、重い期待と、まだ拭いきれないかすかな疑念が、同時に宿っていた。
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