第2話:董卓との出会い

馬賊が去った後の村は、焼け焦げた匂いがまだ残っていた。呂布は、村の入り口に立つ瓦礫の山を見上げていた。昨日まであったはずの平和な日常が、まるで遠い夢のように思える。人々は互いに助け合い、復興に向けて動き始めていたが、その表情には拭いきれない不安が漂っていた。呂布の小さな胸も、同じようにチクリと痛む。


そんなある日、村に異変が起こった。遠くから響く地鳴りのような馬蹄の音。それは、昨日襲ってきた馬賊の比ではない大軍勢の到来を告げていた。村人たちは恐怖に顔を青ざめ、慌てて隠れようとする。呂布もまた、警戒して父の槍を握りしめた。


やがて、隊列の先頭に立つ男の姿が見えた。肥満した体に、見る者を圧倒するような威圧感をまとう男。その男が、後に天下を揺るがす董卓その人であった。彼は馬を下り、まるで村を品定めするかのように周囲を見回した。その視線が、呂布に向けられる。


「ほう、ここが件の『鬼神の娘』が住む村か。確かに、ただの娘ではないな」

董卓の声は、野太く、村中に響き渡った。村人たちは身をすくめる。呂布は一歩前に出た。父から教わった「強き者には毅然と向き合え」という言葉を胸に、真っ直ぐに董卓を見上げた。


「あなたは何者ですか? なぜ、この村に?」

呂布の問いかけに、董卓は意外そうに目を細めた。そして、不敵な笑みを浮かべた。

「我は董卓。この乱世を終わらせるべく立ち上がった者だ。そして、お前の噂を聞き、わざわざ訪ねてきた」

董卓は、呂布の小さな体に宿る圧倒的な力を、その肥えた瞳で見抜いていた。彼は続けた。

「この村の惨状、目に余るな。安心しろ。我がお前を迎え入れた暁には、この村も再建してやろう。必要な物資も兵も、惜しみなく与えてやる」


呂布は、董卓の言葉に驚いた。てっきり、自分を力ずくで従わせようとすると思っていたからだ。だが、董卓は村の惨状を憂い、再建を約束すると言った。その言葉が、純粋な呂布の心に響いた。

「本当に…ですか?」

「うむ。嘘偽りはない。我はお前のような強き者をこそ求めているのだ。お前の力があれば、この乱世を終わらせることができる。そして、お前の大切なこの村も、きっと安寧を取り戻せるだろう」

董卓は、そう言って呂布の頭を優しく撫でた。その手は、見た目とは裏腹に、温かく感じられた。


呂布の心に、これまで感じたことのない温かい感情が広がった。この人は、本当に村のことを考えてくれている。自分の力を、世のために使ってくれる人だ。

「この人なら、きっと世の中を良くしてくれる!」

呂布は、董卓の言葉を純粋に信じた。彼女の瞳には、新たな希望の光が宿った。


村人たちは、董卓の言葉に半信半疑の目を向けていたが、呂布が前に出て、きっぱりと言い放った。

「わかりました。私、あなたについていきます。だから、この村を、みんなを守ってください!」

呂布の真っ直ぐな言葉に、董卓は満足げに頷いた。


こうして、幼き呂布は董卓の養子となり、その軍に加わることになった。彼女の足元には、まだ幼い体を引きずるように、父から受け継いだ槍が揺れる。この出会いが、後の乱世にどれほどの波紋を広げるのか、幼い呂布も、そして董卓自身も、まだ知る由もなかった。

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