第6回 サプライズ

「昨日は、お疲れさまでした~。」

朝から、小倉が社員やパートに声をかける。

「いやあ飲みすぎちゃって。これほんの気持ちで。」

と小さな、紙袋を渡している。

「何ですか~。」

と他のパートさんの中を見せてもらうと、フィナンシェなどの焼き菓子が2つほど入っていた。

「はい。これ水野さんも。」

「ありがとうございます。」

 中を見ると、高級チョコレートだった。緑の大好きなブランド。飲み会の途中で自己紹介したとき、言ったことを思い出した。

私だけ・・・。

「あのこれ?」

小倉は、にっこり笑ってウィンクして、唇に一瞬だけ人差し指を当てた。


ちょっと胸がドキッとした。


 数日後、朝から午後までの通し勤務だったのを忘れて、昼食をもってきてなっことに気が付いた。

「しまった。お昼忘れちゃった。」

お店の商品を買う時は、お客様と一緒に並ばなければならない。

 仕方ない、お店のお惣菜を買うか、と思って、私服に着替えて、いくつかピックアップして、並ぼうとすると、どこから現れた小倉が声をかけた。

「お昼ですか。お店の商品買ったらもったいないですよ。僕もこれからお昼ですから、一緒にどうですか。」

「ええ。でも・・・。」

ちらりとこのまえのチョコのことが脳裏に浮かんでしまう。お昼ぐらいなら。

「じゃあ。」

「ありがとうございます。じゃあ、行きましょう。」

車に向かう前に、小倉はどこかへ電話をしていた。車が付いたのは、鰻屋。

「え。お昼の時間すぎちゃうんじゃ。」

「大丈夫ですよ。」

テーブルにつくと、もう鰻重が並んでいた。え?

「さあ、食べましょう。」

「はあ。」

お金足りるかなぁ。財布の中身を気にしてしまう。高級な美味しい鰻だった。

「はあ。美味しかったぁ。さあ、行きましょう。」

「お金は。おいくらですか。」

「もう支払いは終わってますから。」

「だめです。奢ってもらう理由がありません。」

「ありますよ理由。美人と食事を食べるには、鰻なんか安いくらいです。さあ。」

促されて、車へ向かった。


 私は、もうすっかり小倉のペースに乗せられてしまっていた。

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