第7回 狼狽

その後も、小倉は、

「あ、これ出張のお土産。みなさんに~。」

 とお土産を社員やパートに配る際に、お菓子や小物が配られても、緑にだけは、品のいいアクセサリーだった。

 初めは、雄二にも、

「なんか、いろいろくれるのよ~。」

などと伝えていたが、

 もらったアクセサリーを一度だけ付けないと悪いかなとか思って、イヤーカフを付けるなどしたので、雄二にも言えなくなった。

「うわ~。つけてくださったですね~。感激です。」

「せっかくなんで、でも、夫に何か言われるので今日だけです。」

「もちろん。いいです、いいです。写真だけ撮らせてください。」

「え?」

どぎまぎしている間にスマホを向けられて写真を撮られてしまった。

「宝物にします。きれいだ~。」

小倉は、スマホの写真にキスをした。

「やめてください。」

どぎまぎして、たぶん顔が真っ赤になってる。

 帰宅しても、小倉がスマホにキスするシーンが頭に浮かんでは消えた。イヤーカフはすぐ外してジュエリーボックスにしまった。

 雄二に直ぐに帰ってきてほしかった。

「ただいま」

「おかえり。」

 雄二に抱きついた。抱きしめてほしかった。小倉の姿を夫への愛で消し去りたかった。

「おい、おい。どうしたの。」

「うわぁ、お母さん、ラブラブ~。」

 雄二は、リビングにいた、美紀と真紀が冷やかしたので、いたのもあったのか、手をやさしく振りほどいた。

「ご飯できているから。」

ぶつけた思いの行き先がなくなってしまい、すごすごとキッチンへ戻った。


 寝室でも、スキンシップを試みたが、雄二は、腕枕をしながら眠りについていた。疲れてるからしかたないか・・・思わずため息をついていた。




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