第三十二話 親友への報告
天気も良く、穏やかな昼下がり。東区の大通り沿いにある役所からレオフリックとアーティは並んで出てくる。二人の手はしっかり握られていた。
「婚姻届も受理されたし、俺と女神ちゃんは今日から夫婦だよ。これからよろしくね〜」
嬉しさを隠しきれず、顔がほころび頬が緩みっぱなしのレオフリックを見て、アーティは赤くなりながらにっこり笑う。
昼食後、サーブルの提案を受け籍を入れるため婚姻届を提出しに役所へ訪れたのだった。
基本婚姻届は各区にあるどこの役所でも提出は可能である。最初、中央区の役所へ提出しに行くことをレオフリックが提案してきた。中央区の役所は聖教会に併設されており、婚姻届を出すと優先的に聖教会で祝福を授かることができるとの話を聞く。だがアーティは聖堂での戦いを思い出して頑なに拒否をした。そして拒否をしたもう一つの理由は、聖女が行っていた祝福の儀は現在大司祭であるセレスが代理で行っていることを知っているからだった。魔王の闇との戦いの場所であったことや、よりによってセレスから祝福を受けることになるのは個人的にかなりの抵抗感を感じてしまう。
そのことは夫となったレオフリックへ包み隠さず伝え、理解を得ていた。
「レオさんごめんね。せっかく夫婦になったのに明日から旅に出るから一緒にいれなくって。なるべく早く帰ってくるからね」
「女神ちゃんが弟くんと帰って来るの待ってるよ。旅に出ることを知って、誰かに取られたくなかったから急がせてしまったね。だけど俺と結婚してくれてすごい嬉しい。ありがとう」
「私こそ、選んでくれてありがとーです。でもレオさんのこと狙ってる人たちいっぱいいましたよ。北区の街中でそういう気配たくさん察知しちゃってました」
「女神ちゃんってばもしかしてやきもち〜? 大丈夫、俺の一番は永遠に変わることないから。帰ってきたら結婚指輪見に行こうね。それから結婚生活のことや大事な大事な結婚式のこともあるし。二人で一緒に考えていこう」
「結婚式……。そっか、結婚式をするんですね。どんなものなのかは通りすがりでしか見たことがないから想像つかないですけど」
教会前に集まっているたくさんの人々に囲まれ、幸せいっぱい笑顔の新郎新婦。偶然見かけた知らない人たちの結婚式。そこには喜びと希望が満ち溢れていた。アーティはその光景に温かい気持ちになったことを思い出す。
「俺は自分が女神ちゃんの花嫁姿を見た時に、可愛すぎで倒れるんじゃないか今から心配。ただでさえ今も可愛くてしょうがないのに」
レオフリックの発言に恥ずかしくなり思わず下を向いてしまう。言葉も詰まってしまい何も言えない。アーティは自分なりの愛情表現として、繋いでいる手を強く握ってみる。同じように握り返され、じわじわと安心感が胸に広がっていった。
「今日の夜はサーブルさんと手合わせするんだよね。それまで一緒にいられるね。女神ちゃん、どこか行きたいところある?」
行きたい場所を聞かれて、親友のことを思い出す。
「私の親友に結婚の報告したいです。レオさん、一緒に来てもらってもいいですか?」
アーティからのお願いをレオフリックは快く受け入れる。目的地が決まり、二人は手を繋ぎ寄り添いながら来た道を歩いていった。
アーティたちはフィオナの家へ到着し、玄関を叩く。出てきたのはフィオナだった。アーティはフィオナの様子かいつもと少し違うことに気付く。
「フィオナ、何かあった? 顔が赤いし、目が潤んでるよ。体調大丈夫?」
「た、体調は何ともないわ。アーティ来てくれて良かった、実は私、アーティに聞いて欲しいすごく嬉しい報告があるの!」
フィオナははにかんだ笑顔でアーティの手を取り、青い瞳を輝かせて話してきた。
「なになにー? 嬉しい報告聞きたいー。あっ、もしかしてーあの騎士団長の人絡みの話ー?」
「やだっ、アーティってば! 何で分かるのっ!? あのね、私ね、ワイアットさんと婚約したの!」
「えー! おめでとー! すっごい嬉しいねー! ちょっと詳しく聞きたいなー」
「は、恥ずかしいけど聞いて欲しいかな。上がってって、お茶出すから。あら、そちらの方は……」
フィオナはアーティの後方にいるレオフリックにようやく気付く。
「アーティの夫のレオフリックと申します。ご婚約おめでとうございます、聖女様」
「実はね、私、この人と結婚したんだ。さっき婚姻届出してきたの。フィオナに伝えたくて一緒に来てもらったんだ」
照れ臭そうに話すアーティの話にフィオナは驚きで一瞬固まってしまう。だが、すぐに喜びいっぱいの笑顔を見せる。
「おめでとうアーティ! レオフリックさんアーティをよろしくお願いしますね! 喜ばしいことがいっぱいで、今日はなんて素敵な日なのかしら! 式はいつ挙げる予定なの? 祝福の儀の予約はした?」
「フィオナ落ち着いてー。予約とかは旅から帰ってきてからになるんだ。ユーフィルを迎えに行った後だよ。旅に出る前に籍だけでもって師匠に言われて、ね、レオさん」
「ああ、そうだね。聖女様、道中アーティのことお願いします。俺の妻は腕は強いですが、無邪気で可愛すぎて心配ですので」
「んなっ!?」
親友にさらっととんでもないことを言うレオフリックに、アーティは顔から火がでるほど恥ずかしくなり硬直する。
「はい、それは昔からよく知っています、しっかり任されました」
「二人とも何いってんのー! 私だってワイアットさんからフィオナのことよろしくって頼まれてるんだからねー!」
真っ赤になって声を出すアーティをフィオナとレオフリックは優しい眼差しで微笑んでいる。
この後三人はお茶を飲みながら馴れ初めなどを伝えあったのだが、話の大半はフィオナとレオフリックの二人によるアーティの可愛いところの話がなされていた。
帰り際にはレオフリックに支えられなければならない程、話題の当事者であったアーティは恥ずかしさで疲弊していたのだった。
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