第十三話 仲間という存在
護衛任務3日目、今日の到達予定地点は北の塔への分岐点である。アーティたち一行は変わりない隊列で馬車を囲み歩んでいた。
「今日も晴れて良かったねー、ね、メーリック」
「そ、そうだね。ア、アーティ、あの……。やっぱり何でもない」
今朝からメーリックがぎこちない。話しかけには答えるが言い淀んでいる。話を聞こうとしてもはぐらかされてしまう。ものすごく気になるんですけれども。でも本人が何も言わないからどうしようもない。
知らないうちに何かしてしまっていたのかと考えてはみるも、検討がつかない。
隣を歩いているメーリックのことを横目で見るも、俯き加減で表情は暗い。次の休憩の時にしっかり向き合って話を聞き出そう。仲間が悩んでいるなら寄り添ってあげたいじゃない。
そう、大切な仲間なのだから。
そういえば私って、今まで仲間と呼べる人達がいたことあったかな。
初めて魔物討伐の旅に出た時は、師匠とユーフィルと私の三人だった。レベル上げの修行も兼ねてたからだけど、関係性を言うなら仲間というより家族と呼ぶよね。その後もずっとこの三人で行動していた。
ユーフィルが勇者に選ばれて抜けてからは師匠と私の二人だけで旅を続けていた。単身一人で南の洞窟や西の遺跡の攻略に行ったこともある。最近だと魔石取りの修行の旅も師匠との二人だったし。
ユーフィルとフィオナが魔王討伐の旅に出る前、戦士の人と僧侶の人を紹介してきて、その時ユーフィルが言った言葉が、
「仲間たちと一緒に必ず魔王を倒してくるね」
その時仲間ってすごく素敵だなって思ったんだよね。羨ましさもちょっとだけあったかもしれない。でも今自分にも仲間が出来たんだなぁと思うと、なんだかすごく胸がいっぱいになる。
昔、フィオナが聖女になってから私たちと一緒に旅をしようと誘ったけど、聖教会の方がそれを許してくれなかった。フィオナ自身は行きたがってたけど結局断られたっけ。
フィオナ、私が魔王城へ行く時仲間になってくれないかな。仲間になった親友とパーティーを組んで旅をする、なんて素敵なんだろう。
勝手に未来のシチュエーションを想像して、口元が緩んでしまうアーティだった。
朝から歩みを進め、昼前には休憩場所に到着することができた。馬車が止まり、いつものように聖女の付き人と聖女が降りてきて散歩へ行く。
だが、今回馬車から先に降りてきたのは聖女だった。
「フィ……、聖女様!?」
馬車のドア前で待機していたアーティは、まさかフィオナが付き人よりも先に出てくるとは全く予想していなかった。驚きのあまり親友の名前を呼んでしまいそうになったが、他の団員たちがまだ馬車の近くにいるため何とか堪える。
フィオナは馬車から地面への段差を軽々と降りてくる。いつも付き人に支えられて降りていたのは何だったのかと思える程足取りは軽快だった。そしてアーティの姿を確認すると笑顔がさらに明るくなり、駆け寄るとぎゅっと腕を組んできた。
フィオナの予想外の行動にアーティは軽くパニックになる。
「フィオナどうして先に降りるの! って、お前何してんだよ!?」
「何もしてない、何もしてないよ!」
「嘘をつくな! じゃあなんでフィオナがお前なんかにくっついているんだよ! お前が何かしたんだろ!」
「するわけないじゃん! 何かって何!」
馬車から降りてきた付き人の少年は自分の目の前で密着している二人を見ると、すぐさまアーティに文句をつけてきた。大声でのやり取りに他の団員たちが何事かと集まって来る。
「アーティどうかしたの、って聖女様!? 何かあったのですか!」
リディも聖女がアーティの腕を組んで寄り添っている光景に驚きを隠せない。
「聖女様、こちらの団員に何か用があるのですか? 聖女様に触れられ少し困惑しているので離れて頂きたいのですが」
レオフリックは自然な動きでアーティの肩を抱きながら、毅然として聖女に対し話をする。聖女はしばらく俯いていたが、渋々と組んでいた腕を離した。
「フィオナ行くよ」
付き人の少年が聖女の手を取り歩き出す。
「護衛はお前とお前が付いて来い」
振り返り、リディとメーリックを指差し指名をしてきた。
「行って来るわね」
「い、行ってきます」
遠ざかっていく二人を見送るアーティ達だった。
――フィオナ、元気になってきたんだね。護衛任務初日に見た時より顔色良くなってた。話せないから伝えたいことは分からないけど、あの笑顔を見れて良かった。腕組みされたのも久しぶりで懐かしい。
突然のフィオナの行動に戸惑ったが、あれは自分に対する彼女なりのアプローチだったとアーティは納得した。
「女神ちゃん大丈夫?」
「びっくりしましたけど大丈夫です。肩の手、もう離してくれていいですよー」
「俺のライバルは聖女様なのかな……」
「何がですかー。何で肩から腰に手を回してるんですかー?」
「ん〜、独占欲〜?」
「貸し二個になりましたよ……」
レオフリックのアピールに、アーティは未だ気付いていなかった。
「ア、アーティ! き、聞きたいことがあるの! ちょっと一緒に来て欲しい!」
「う、うん?」
聖女の散歩の護衛から戻ってきたメーリックは、意を決してアーティに話しかけ、手を取ると休憩場所の奥へと歩き出した。
「こ、ここなら他のみんなに話が聞こえることはないから安心して」
かなり離れた所まで来ると、メーリックはアーティに向き合い、呼吸を整えてから言葉を発する。
「せ、聖女様とアーティの関係性、聞いてもいい?」
あー、それかー、それだったんだー。メーリックがずっと言いたげにしてた話ってそのことだったんだ。そーだよねー、私がフィオナと話がしたいために巻き込んでおいて、理由も何にも伝えずはい終了ー、ってのはひどいよね。
メーリックの気持ち、全然考えていなかった。最低だ私。
「あ、あの時聖女様と話してる内容聞こえちゃってて……。ア、アーティが聖女様にお話ししたかったことが、その、てっきり魔王を倒してくれたお礼なのかなって勝手に思ってたから」
「メーリックごめんね、ずっともやもやさせちゃってたね」
「う、ううん」
「フィオナは……、私にとって、すごく大切な親友なんだ」
「せ、聖女様が、親友……」
「うん、小さい頃からずっと一緒だった。聖女になってからは聖教会のお勤めであんまり会えなくなったけど、私が修行で挫けそうな時に一番近くで励ましてくれたり、いっつも笑顔で話聞いてくれたんだ」
「そ、そうだったんだね。じ、じゃあ助けるっていうのは?」
「今のフィオナは話すことができない。魔法が使えない状態なんだ。北の塔へ行くのも本人の意思はないものと思ってる。だから、それらをぜーんぶひっくるめて今度は私が助けたいの」
しまった、へらへらと喋り過ぎたかな。師匠から関係性の話は広げるなって言われてたけど、話してしまったからそれはもうしょうがないよね。
メーリックはどう思っただろう。顔の表情はさっきより少し和らいだ感じはする。
「ア、アーティありがとう話してくれて。せ、聖女様がとても大事だってこと、ちゃんと伝わったよ」
「私はメーリックのことも大事だと思ってるよ、仲間として! 悩ませちゃっててごめんねー!」
そう言い、ギューっとメーリックに抱きつくアーティ。
「今更だけど、この話内緒にしてね」
「う、うん。アーティと自分だけの内緒の話だね」
大事な仲間と言われたことに照れながら、メーリックもぎゅっとアーティを抱きしめ返すのだった。
休憩場所を出発する際にリディから、
「聖女様達に今日は分岐点の近くで野営して、明日はそこから北の塔へ歩いて行くこと伝えたわ。聖女様は頷いてくれたけど、あの付き人の子、ギャンギャンと……、まあいいわ。多分もう聖女様連れてのお散歩はないわね。でもアーティ、あなたはあの子に近づかないほうがいいわよ。子犬でも噛まれると痛いでしょうから」
「あー、あはははー、そうですねー」
子犬と比喩されたことで何があったのかがすぐ分かり、笑って流すアーティ。
そして、聖女がアーティに腕を組んできたことは触れてはいけない話となったのか、誰も何も言ってはこなかった。
街道へ戻り、一行は更に北へと進んでいく。
先程の休憩場所からほど遠くなく分岐点が見えてきた。今日の予定野営地は分岐点をそのまま北東へ進んだ先にある。
北の塔への道は、街道のように舗装されておらず、細道が鬱蒼とした森の中へと続いていた。
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