第五話 聖女の護衛部隊
「おはようございますっアーティさん。今日からよろしくお願いしますねっ」
「リンドルさんおはよーです。よろしくでーす」
「おーっす、二人共よろしくな。さっき嬢ちゃんを遠目で見たんだけどよ、しゃがんだり跳ねたりしてたが準備体操でもしてたのか?」
「あー、あはは、そんな感じー。ガラハさんに見られてたかー、恥ずかしー。っていうか目がいいんですねー」
「そーさな、俺は高台での警備の仕事をすることが多いからな。ただ最近年のせいか手元の細かい文字が見えにくい時があるのが困りもんでよ」
「ガラハさんって団長と同年代でしたよねー。似たようなこと団長も言ってましたよー」
「あ、その話僕も聞いたことありますっ。40超えたら症状出てきたとかって」
「リンドル、お前も20年後には気をつけろよ〜」
アーティは待機場所へ集合してきた二人の団員と気さくに挨拶を交わし、和やかに雑談をしていた。昨日事前に護衛部隊の顔合わせをしており把握ができている。そしてこちらに向ってきた三人目の団員にも声をかけた。
「メーリックさんおはよー。一緒のお仕事よろしくねー」
「み、皆さんおはようございます。ア、アーティさんはお元気で何よりですね」
「メーリックさんおはようございますっ。よろしくお願いしますっ」
「おうっメーリック、おはよーさん。久しぶりに一緒の仕事になったな。よろしくな」
「ガ、ガラハさんお久しぶりです。リ、リンドルさんよろしくです。回復はお任せくださいね」
「これで打ち合わせの時のメンバーは集まったねー。残り二人はどんな人たちかなー」
「昨日の打ち合わせには隊長方お二人共来れなくて会えなかったですよね。強くて優しくていい方々ですよっ」
リンドルはにこやかにアーティにそう話した。
護衛部隊のメンバーはアーティを含めた一般の団員4名と、北の傭兵団にいくつかある部隊にて隊長を務めている2名の合計六人でと団長から指示が出ていた。
「昨日も話しましたが、僕護衛の仕事は初めてなんですっ。ガラハさんっ色々勉強させてくださいっ」
「そう固くなるなっての。無理はするなよ」
「じ、自分は後衛になりますけど、できる限り頑張ります。き、北の塔までの4日間無事に行きたいですね」
「百戦錬磨の戦いの女神様がついてるからこの任務楽勝〜楽勝〜」
「ひゃぁぁ!」
「おおっとっ」
突然後ろからの声に驚いたメーリックは悲鳴をあげてよろけたが、ガラハが咄嗟に支える。
話に入ってきた男からの聞き覚えのある単語に反応し、ぶふぉーっと吹き出すアーティ。
「どうしましたかっアーティさんっ! 水飲みますかっ!」
隣にいたリンドルは荷物から水筒を出しかけたが、アーティは丁重に断った。
「その人がー、なんかさっき言った変な言葉でー、動揺しちゃってー」
さっきまで笑顔でいたアーティの表情から一瞬でにこやかさが消える。
「その人だなんて、女神様ってばつれないなぁ。でも噂通りすっげぇ可愛いじゃん」
馴れ馴れしく絡んでくる端正な容姿をした高身長の青年をジト目で見上げ、アーティはボソボソと呟き始める。
「そのノリ私無理。そのノリ無理。ノリ無理無理……」
「隊長〜彼女困ってますよ。あ、おはようございますっ」
「おいおい、びっくりさせてくれるなよ」
「び、びっくりした。え、えと、お、おはようございます」
「みんなおはよう。今回の任務よろしく頼む。そして初めましてだね女神様は。ようやく会えて嬉しいよ。俺は傭兵団第一部隊隊長のレオフリック。気軽にレオって呼んでくれ」
こちらを見つめて爽やかな笑顔を向けてくるこの男、少し癖のあるふわふわとした短髪黒髪、目尻が少し下がり気味で、緑みがかった藍色の瞳が印象的である。
第一部隊隊長の噂はなんとなく聞いていた。堂々として自信に満ちた姿勢、親しみやすい好感のもてる雰囲気、実力も十分あり周りからの信頼も厚い高評価な人物、と聞き及んでいたのだが、何これ。
なぜ初対面でこんなに馴れ馴れしいのか?
なぜ自分に対しウザ絡みしてきたのか?
なぜ名前で呼んでくれないのか?
どんなに悩んでも全くもって答えが出ない。
「おーい女神様ー? どしたー? おーい?」
声をかけられ続けて考えるのをやめ、パンっとアーティは大きく手を叩く。
「さーてっと、ガラハさんリンドルさんメーリックさん任務頑張りましょうねー。改めてよろしくでーす」
そう言いながら、名前を呼んだ三人にとびきりの笑顔を向ける。
「え!? 俺の名前は言ってくれないの!?」
「私は女神様じゃないんでー。どなたさんですかー、知らない人なのでごめんなさーい」
「まじかー、まじでかー、すげーへこむわー。でもそれも女神様の魅力だよなー」
「嬢ちゃんよ……。こいつは前からこんな奴なんだ。悪いヤツじゃねえけどよ」
「僕の所属部隊の隊長が……、アーティさんなんかすみませんっ!」
「一般団員に気を使わせる隊長さんってなんなんだろーねー」
「女神様呼びが照れてダメなら、女神ちゃんってのはどうかな? かな?」
「チャラリック隊長とお呼びしてもー?」
「はははっ、面白いなあ女神ちゃんは」
「うへぇー」
このチャラい男に対し苦手意識を持ったアーティはうんざりした表情のまま、すすす〜っと素早い動きでその場所から距離をとっていく。
「ううー、ずっとあの絡み方されるのはしんどいぞー」
声が聞こえなくなるくらい一人離れたアーティは呟きながら深く嘆息した。
しばし憂鬱なため息をついていたが、前方からの気配を察知した瞬間身構え、近づいてくる者を注視する。颯爽と優美に歩いてきたのは端麗な顔立ちをした長身の美女。アーティの前で立ち止まると、にっこり微笑みながら話しかけてきた。
「あなたが討伐部隊に最年少で配属されたアーティね。噂はかねがね聞いていたわ。すごくお強いんですってね。今回一緒にお仕事できること、とても嬉しいわ」
「お褒めの言葉ありがとうございます。えーと、初めまして? ですよねー」
「そうね、昨日の打ち合わせには仕事で出れなかったのよ。ごめんなさいね。私のことはリディって呼んでね。普段は第三部隊で隊長をしているわ」
「そうなんですねー。よろしくお願いしまーす。女性で隊長職ってすごいですねー。すっごいお綺麗ですしー」
「うふふふ〜、ありがとう〜」
「リ、リディ隊長、お、おはようございます。今日からのお仕事もよろしくお願いします」
「おはようメーリック。依頼、頑張りましょうね」
「メーリックさんも第三部隊だったよねー。メーリックさんも可愛いけど、リディさんすっごい美人だねー。第三部隊って女の人多いの?」
自身の所属部隊の隊長へ挨拶にきたメーリックに、ふと思った疑問を投げかけるアーティ。
「じ、自分実は男なんです! だ、第三部隊に女性はいませんっ! で、でも可愛いって言ってもらえて嬉しぃ……で、す」
最後はモゴモゴと小声で聞き取れなかったが、顔を真っ赤にして伝えてきたメーリックの話の内容に、頭の中がはてなマークでいっぱいになるアーティ。腕組みをし、言葉の違和感を考え込みながらメーリックの姿をじっと見る。
身長は160センチあるアーティと同じくらい。丸みのある内巻きのボブヘア、垂れ目で可愛さのある目、装備しているローブの所々にはレースの装飾が付いている。昨日の顔合わせで聞いていた年齢は3つ程上の21歳。年齢より幼く見える童顔な顔立ち。外見的にはとても男性とは思えない。
「駄目よメーリック、それは内緒でしょ。次からは気をつけましょうね」
「あ! そっ、そうでしたっ! つ、ついっ! す、すみません……」
リディはにこやかな微笑みを崩さず、諭すようにメーリックに言った。
「アーティも、この事は秘密にね」
そう言い人差し指でアーティの唇を軽くおさえながらウインクをする。
「べっつに女神ちゃんには第三部隊のこと隠さなくてもいーんじゃねえの? なあ、リディアークよ〜」
「うひゃっ!」
「っと。大丈夫?」
また自分の後ろからの突然の声にメーリックは悲鳴をあげ、よろけそうになったところを今度はアーティが支えた。
「あらぁ、女性同士のお話中に急に割り込んでくるなんて、相変わらず不作法で無神経なのね、レオフリック。あと、私の呼び名間違えないでくれるかしら」
「あ〜、さーせんでした。繊細なリディアーク隊長〜」
「レオ、喧嘩なら買うわよ」
「おーおー、こっわ〜。怒りのリディアーク様降臨か〜」
「あんたね〜、いい加減にしなさいよ!」
隊長職である二人の決して友好的には見えないやりとりは終わる気配がない。その様子を見ている二人の一般団員。
「あの二人って仲悪いの?」
「リ、リディ隊長にレオフリック隊長が絡んできて言い争いが起こる感じですね。お、主に呼び名のことで」
「あー、呼び名ねー、わざととか超最悪じゃん」
本日2度目のジト目になるアーティだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます