第四話 再会を待ち望む日々
聖女の護衛の仕事日当日、アーティは待機場所である国の北側城門前で他の護衛部隊の団員たちが来るのを待っていた。
「ちょーっと早過ぎだったかなー。にしても天気わっるっ! 昨日まで快晴だったのになー」
空を見上げてアーティは一人呟く。今日の空模様は朝から厚い雲に覆われ、どんより曇っており薄暗い。
「もう少しで、やーっとフィオナに会えるんだね私」
灰色に広がっている空を見つめ、ぎゅっと拳を握りしめる。自分の一番大切な親友に再会できるという期待と嬉しさで胸がいっぱいになっていた。
「ふふっ、2年ぶりくらいだよね。あー楽しみっ! すっごい楽しみっ! ふふふっ、楽しみだなー! なんかワクワクしてきたー!」
空を見てしみじみしていたのも束の間、感情が爆発したのか急にハイテンションで小踊りし始める。握った両手を口元に添えてぐねぐね身体を揺らしたり、ぴょんぴょんと飛び跳ねてみたり。
人の気配を察知し冷静になるまで興奮状態が続いていたアーティだった。
魔王討伐後、帰還していた親友に会えないでいたことをずっと後悔していた。
勇者であった弟の訃報を知り3日間意識喪失。その間に行われた凱旋パレードに行っていればその時親友に会うことが出来たのではないのかと今も思う。
目覚めた後しばらくの寝たきり生活、からの師匠との見知らぬ地での超ハードな修行の旅にて3ヶ月以上も経過。修行から戻った後にようやくフィオナの家を訪れることができたのだ。
弟のこと、旅のこと、戦いのこと、私のこと、フィオナのこと、何から聞こうか話そうか、ユーフィルのこと悲しんでるよね、慰めなきゃ、一緒に前に進むんだ、それから魔石のこととか魔王城へ行くことと……。
フィオナに会ったらこうしようああしようと色々考えてて頭の中はごちゃごちゃ、珍しく緊張もしていた。
『アーティ、久しぶりね』
ふわっと揺れるブロンドヘア、宝石みたいに綺麗で魅了される青い瞳、柔らかな表情で慈愛溢れる笑顔、相変わらずの可愛らしい声で名前を呼ばれる。
そんな再会のシチュエーションまで想像していたが、結論として、フィオナは家にはいなかった。家のドアから出てきたのはフィオナのお母さんだった。
小さい時から私たち姉弟のことをすごく気にかけてくれて、たくさんお世話してくれた温かい人。
おばさんは私を見た瞬間、涙目でぎゅーっと抱きしめてきた。あわあわと焦りながらも理由を聞いてみると、私の状態が回復して元気な姿に戻ったのが嬉しかったとのこと。
というのも私の寝たきり期間中、何度も様子を見に来てくれてて師匠と一緒に時々私のお世話をしていたが、声をかけても全く反応しなかったこと、そして数ヶ月前から私と師匠が突然家からいなくなったことをものすごく心配していたと話された。
ひたすら全力で感謝と謝罪しまくったよ。不在時の言い訳は急遽修行の旅に出ることで長期間家を空けることを師匠が伝え忘れてた、ということにした。
立ち話は悪いからと、家の中に招き入れられお茶を出された。温かいお茶を飲み、一息ついたところで改めてフィオナのことを聞くと、おばさんは寂しげな表情で話をしてくれた。
魔王討伐後この国に帰ってきたフィオナは自宅に一度も帰ってくることがなかったという。
凱旋パレードの時に会うことができたが、今後は城仕えになるから家には帰れないことを告げられたらしい。
世界のために魔王を倒し、英雄の一人となった聖女である娘なら、城仕えの仕事も立派に務めるだろう、今は忙しくて帰ってこれないだけ、その様におばさんは理解して納得した様子だった。
ただずっと気にしていることがあるという。会った時、フィオナは言葉が話せない状態だったとのこと。
城仕えの話も実際はフィオナ本人からではなく、介添をしていた聖職者の人らが告げてきた。話せなくなってしまった聖女の治療は自分たちが行うので心配いらないとも。
そのように言われれば、親としてはお願いするしかなかったのだろう。治療が終わり次第状態の連絡する旨を一方的に言われ、おばさんはフィオナの回復を祈るしかできないでいた。
フィオナの居る場所が分かったので、フィオナ母に見送られて早速城へと足早に向かった。
聖女の親友がお見舞いに来たと言えばすんなり会わせてもらえるよねー、と気楽に考えていたんだけど、結果的にはダメだった。
城の入り口で警備をしていた兵士の人に城に入りたい理由を話してみたが、めんどくさそうな表情をされ門前払いをされた。
そういえばスムーズに城の中に通してもらえるのはそれなりの地位の人とかそれなりのご用事がある人とかだったことを思い出す。国内あげての大きなイベント時のみ入れたっけ。
なんとか城内に入れないかと兵士の人相手にごねまくっている横を、騎士の人や聖職者の人たちは次々と顔パスで通り過ぎていく。貴族の馬車や高価な商品を扱っているような商人の人たちも、にこやかな表情の他の兵士の人たちが速やかに手続きをして通されていた。
何この対応の差? 表情の差?
どうあっても通してくれないことに段々イライラしてきたけど、今日の警備担当の兵士の人たちじゃなければ通してくれるかもしれないと思いその日は帰った。
だけど思い通じず、城へ入ることが許可される日はなかった。
連日城へ出向き正面から頼み込むも警備兵から塩対応を受け、フィオナに全然会うことができなくて不満が鬱積する日々を送っていた。
いっそ忍び込んで会いに行こうかなと師匠にぼやいたら、力を使い方を見誤るなとお叱りを受けた。
いくら勇者の身内とはいえ、ただの民間人が城に侵入しようものならその事態は大事であり、自分の周りの者や他の無関係な者達にも多大な迷惑がかかるだろう。大罪人となってしまうことも考えられる。聖女の現状が分かっていないなら、なおさら安易な行動を取るべきではない。時が来るのを待っているのが賢明だ、との師匠の言葉に諭され、城への侵入計画は断念することにした。
というか、この時師匠が止めてくれてなかったら確実に実行してたと思う。
確かに思い通りにならなすぎて自分のことしか考えられなくなってたなと気付く。感情のまま、浅はかで軽率すぎる行動を取ることがなくて良かったと心底反省した。
フィオナには絶対会える、会うことができる。ただそれがきっと今じゃないだけなんだ。無駄にじたばたと足掻くより、自分がやるべき別の事をして時が来るのを待ち望もう、そう強く心に決めた。
やるべき事としてお金を稼ぐことを選択した。働き先の北の傭兵団は師匠に紹介してもらった。足掻くことをやめたら聖女の護衛依頼の話が舞い込んできた。
そして今日、待ち望んでいた日がようやく来たのである。
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