忘れられない夏が、静かに身体を濡らしていく。

父の死を契機に帰郷した青年が、夏の田舎で過去と向き合う数日間。

蝉の声、苔の匂い、焼けたアスファルト、そして黄ばんだ野球ボール。
それらが、父との記憶を呼び起こす装置として機能し、心を揺さぶられました。
死の気配と暑さが混じり合う居間の描写から始まり、
青年の心情と空気の重さが重なります。
一方で、作品は少年との出会いを通して、内面に潜む欲望や倫理の揺らぎを描く。
その描写は繊細で、時に危うく目を背けることができず、
人間の本質に触れるような感覚を覚えます。
死と生、過去と現在、そして倫理と欲望の境界を問いかける作品です。

ありがとうございました。

その他のおすすめレビュー

柊野有@ひいらぎさんの他のおすすめレビュー1,284