第5話 背中にあたっているやわらかなあれ
また魔物に襲われたら堪らないので、急いで街道まで出ることにした。
「この森で
そういう奴らがあんな魔物に出会ってたら——。
「戻ったら一応ギルドに報告しておくか」
忘れないように呟きながら、深い藪を掻き分けていく。
道なき道を進んでいると、背中からもう何度も聞いた溜息が降ってきた。
「はぁ、見られた……もうお嫁に行けない……」
「何回も謝っただろ。そんなこといってるとここで降ろすぞ?」
「やだやだぁ!」
首元にしがみつくロッカの手に力が入る。苦しいっての。
それにそんなに密着されたら背中に当たって——くそ、柔らかすぎる。
「ねえ、なんか変なこと考えてません⁉︎」
「え、いや? だって俺はほら、紳士だからな」
「その単語が出てくる時点で考えてるでしょ! もう、ヴェインさんのエッチ!」
「やっぱここらで降ろしておくかな」
「やだやだやだぁ!」
今度は足でガッチリ体をホールドされてしまった。
なんだこのからかい甲斐のある可愛い生き物は。
「にしても、なんでこんな場所に一人でいたんだ?」
「えっと、探しているものがあったんです。でも……騙されちゃったみたいで」
聞けば、喉から手が出るほど欲しいエコーライトの鉱床がこの森の奥にあるという偽の情報を掴まされたらしい。
「その情報を買ったおかげで財布もすっからかんです……」
「いくらで買ったんだ?」
「770万リルです」
「なっ、ななひゃく……?」
パンが一個100リル、宿が一泊3000リルくらいだから……ええっと、何日遊んで暮らせるんだ。
計算は苦手だからよく分からんが、とにかくとんでもない金額だ。
そんな見たこともない大金を支払った結果——。
「何もありませんでしたぁ……」
背中の上でロッカがぐったりとしたのが分かる。
そりゃ大金払って買った情報が嘘でした、じゃそうもなるか。
人ってのは安いもんほど怪しく思えたりするんだよな。
ロッカも大金を要求されたからこそ、正しい情報なんだと信じちまったんだろう。
「なぜそうまでしてなんとかライトって石を求めているんだ?」
「それは私が魔工技士だから……ですかね。力のない人が、せめて自分を守れるような武器を作りたくて……そのためにはエコーライトが大量に必要なんです」
そういえばユニークジョブを賜った人の多くはその力を世界のために振るうものだ、とかいう話を聞いたことがある。
やっぱロッカも戴冠者だけあって、立派な考えをしているんだな。
文無し少女を元気付けるためにそれを伝えると、後ろから頬をつんと突かれる。
「あなたもその戴冠者になったんでしょ、ヴェインさん?」
あ、そういえばすっかり忘れていた。
しかし
と、そう考えたところで気づいてしまった。
俺は魔銃士なのに肝心の銃ってやつを持ってないじゃないか。
その名前に偽りあり、だ。
やっぱり俺には無理なんだろう。きっと封術士として生きていくのがお似合いなんだ。
でも、初めて自分で魔術を撃ったあの感覚、あの高揚感……あれこそまさに絶頂といえるかもしれない。
思い出すだけで蕩けてしまいそうだ。
「ああ、たまんねぇ……」
「ヴェインさん、もしかしてまた変なこと考えてます!?」
ポカポカと頭を叩くな、今回は本当に誤解なんだって。
「よし、今日はここで夜営するぞ」
どうにか街道まで出て、しばらく歩いていると陽が落ちてきた。
女の子を背負ったまま夜道を進むのはさすがに危険だからな。
「なにか手伝えることはありますか?」
「俺がやるからいい。怪我人は大人しく座ってろ」
「ずっと背負ってもらってたのに、野営の準備まで全部やってもらうなんて悪いです」
まだ足を引きずってるのに強がってんな。
こっちは野営なんて慣れてるから気にしなくていいのに。
「じゃあその中から食べられそうなもんを見繕っておいてくれ」
麻袋をロッカの足元へ放り投げると、俺は薪を拾いに森へ。
すぐに一抱えの枯れ木が集まったので戻ると、鉄製のスキレットの上に刻んだキノコが載っていた。
「あれ、そのスキレットと包丁はどこから出てきたんだ?」
ロッカの荷物は森林豹に追われている間に失くしたと聞いていたが……。
「えっと、今作りましたっ! ポケットに予備の鉄が入っていたので」
そうか、彼女のユニークジョブは物を直すだけじゃないんだよな。
新たなものを作り出すことだってできるんだ。
「なぁ、魔工技士ってなんでも作れるのか?」
「素材があって、わたしの頭の中で設計できれば……ですね」
「なるほど。そりゃ便利だな」
つまりアレを作って貰うことも可能ってことか。
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