第4話 女神の福音

「ほんっとうにすまんッ!」


 フォレストパンサーを風の弾でバラバラにした俺は、ロッカに深々と頭を下げていた。

 俺の魔力がこもった弾に耐えられなかった魔銃マギシューターが、ぶっ壊れてしまったからだ。

 先端がまるで咲いた花のように広がってしまっている。


「いえいえ、おかげで助かりましたから! それに……」


 ロッカは気丈にも笑顔を見せると、ボロボロになった銃を抱きしめる。

 あんなに大事にしているものを壊すなんて、申し訳ないことをした。


「これくらい全然大丈夫ですっ!」


 そう明るく口にすると輝くような笑顔を見せ——いや待て、輝いてるのは笑顔だけじゃない。

 どういうわけか、ロッカの体全体が光ってやがる。


「——修復リペア


 小さくそう聞こえた次の瞬間には、魔銃が元通りに直っていた。

 一体何が起こったんだ。


「実はわたし、ユニークジョブに就いているんです」

「ええっ、それは凄いな。ユニークジョブってことはその職業のやつは世界でたった一人、ロッカだけなんだろ? 『勇者』だとか『聖女』みたいな特別なやつだよな」


 女神に特別愛された人が賜われる褒章という意味も込めて、ユニークジョブに就いている人を〝戴冠者〟なんて呼んだりもする。

 戴冠者はみんな優秀で、国や世界を動かすような立場の人ばかりらしい。

 それだからか、ユニークジョブ持ちに直接会ったのはロッカが初めてだ。


「いえ、わたしのはそんな大仰なものじゃないですよ。魔工技士マギクラフターっていうんです」


 魔工技士か……確かに聞いたことがない。

 俺の封術士も割とレアなジョブではあるけど、それでも大きい街なら数人はいるもんな。

 目の前にいる半裸の少女が戴冠者か……うーん。


「あーっ! もしかして疑ってます⁉︎」

「ちょっとだけ、な。でも目の前で奇跡みたいなもんを見せられたら信じるしかねえよ」

「えへへ。あっ、奇跡といえば……さっきのはなんだったんですかっ⁉︎  わたしの銃から魔術がドーンって出て……」


 ロッカはさっきの光景を思い出したのか、魔銃を色んな角度から舐め回すように見つめている。


「あれは魔術を封じた魔石を撃ったのさ」

「魔石を?」

「そう。俺が考案した使い捨て魔術でな。魔石を喚起するだけで魔術が発動できるって代物だ」


 人生で誇れる数少ない実績にどうだ、と胸を張る。

 

「言ってる意味がよく分かりません。だって魔石に魔術を封じることなんてできます? 魔力、ならわかりますけど……」

「ああ、俺のジョブは封術士だからな。といってもその技術を完成するまでにはかなり苦戦をしたよ」


 そう伝えても、ロッカはまだ納得しきれてない様子だ。

 さっき実際に見たんだから信じてほし——。


「いっ、なんだッ!?」

 

 突然、頭の中に声が響いた。

 これは……〝女神の福音〟とも呼ばれる天の声だ。

 かなり昔——それこそ封術士のジョブをもらった時に聞いて以来か。

 なぜ急に女神の福音が聞こえるのかさっぱり分からない。


《人の子よ。お前をユニークジョブ「魔銃士マギガンナー」と認めます。驕らず、腐らず、さらなる研鑽を積みなさい。そして——いずれくる刻に備えるのです》


「マ、マギ……ガンナー?」

「どうしたんです? まさか……女神の福音ですかっ?」


 思わず天を仰いで呟く俺を見て、ロッカはすぐにピンときたようだ。

 

「ああ。どういうことか、俺は魔銃士なんていうユニークジョブを賜ったらしい」


 銃という言葉の響き的に、あの魔銃をぶっ放したからかもしれない。

 ジョブってのは本人の行動や思考の結果、賜るものではあるが……こんな簡単でいいのか。


「え、ヴェインさんもユニークジョブを賜ったんですか? わぁ、おそろいですねっ!」


 ロッカは無邪気に俺の手を取って、ぶんぶんと振った。

 それに合わせて、半分はだけている胸が上下に揺れるもんだから目のやり場に困る。

 改めて見ると身長は140センチちょっとしかないのに、豊満な体つきだな。

 ちょっと癖のある赤毛はちょうど胸の先っぽを隠すくらいの長さで、それがより扇情的だ。


「あー、今ちっちゃいなって思いました!?」

「ち、ちっちゃい?」


 まさか、その逆だ。

 誰がそんなモノを見て小さいなんていうんだよ……。


「実は、私の父はドワーフなんです。だから親類の中ではこれでも背が大きい方なんですよ⁉︎」

「ソーナンダー、ヘェー」


 危ねぇ、身長の話だったか。思わず返事が棒読みになってしまった。

 自分の下衆な勘違いに恥じ入るばかりだ。

 しかし目の保養になるとはいえ、女の子にずっとそんな格好をさせているわけにもいかない。


「ほらこれ。あんまり綺麗じゃないが……」


 俺は羽織っていた外套マントを脱ぐと、ロッカに手渡す。

 彼女はなんで渡されたのか分からない、とでもいうように首を傾げている。

 もしや魔物に襲われて気が動転していたから、自分の格好に気付いていないのか。


「女の子がそんな格好だと……ほら、まずいだろ?」

「格好……っ? あっ、ああぁっ⁉︎」


 ロッカは自分の服がボロボロなことに気付くと、手をわたわたさせる。

 それから顔を真っ赤にして、慌てて外套にくるまった。


「もしかして、わたしの――見ましたか?」

「あー。まあ……見た、な」

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