第6話 貸与とパーティ

 ここで夜営をしたであろう前任者が組んでいた石のかまどに、拾ってきた枯れ木を並べる。

 火をつけるのは……そういやいつもダズが魔術でやっていたんだった。

 さて、どうしよう。

 

「使います?」


 ロッカが魔銃マギシューターを差し出してくれる。

 これで火をつけろってか。


「また壊しちゃわないか?」

「そしたらまた直せばいいんですよ」


 笑顔でそういってくれたので、お言葉に甘えて使わせてもらうことにする。

 腰のポーチから小さな魔石を取り出して、魔法陣を構築する。

 魔石が赤く輝くと、ロッカが「おおー」と拍手をして俺の肯定感を高めてくれた。


「危ないかもしれないから俺の後ろに隠れとけ」

「はーい」


 銃の先端から放たれた小さな炎は、上手いこと枯れ木に火をつけてくれた。

 どうやら魔法陣で細かく調整しておけば、いきなり壊れることはなさそうだ。

 その気になればもっと色々なことができそうで、これを握っているとワクワクしてしまうぜ。



「んー、いい匂いがしてきましたね……あ、そういえばヴェインさんっ!」

「な、なんだ?」

「あのね、森のキノコを採取するのはいいですよ? けど、あの袋に入ってたの食べられないものばっかりでした……」

「そ、そうなのか」


 植物の採取はシーフのウィン=ルゥに頼りっぱなしだったからな……エルフってのもあってかやたら植生に詳しかったから。

 いつも適当に採っているように見えたから真似してみたんだが、やっぱりちゃんと選別してたんだな。


「はぁ、わたしがいなかったらあの世行きだったかもですよ?」

「そうか。じゃあロッカが側にいてくれて助かったな。ありがとう」

「ふ、ふぇっ……ど、どういたしまして?」


 お礼を言っただけなのに、なぜか顔を赤くしているロッカを横目に肉を処理する。

 さすがにキノコと山菜だけじゃ物足りない。


「包丁も作っておいてくれて助かった」

「それより、それ……本当に食べられるんですか?」

「ま、大丈夫だろ。新鮮だし。キノコのことはさっぱりわからないが、肉の処理は任せとけって」


 特徴的な模様の皮を剥いで、大きめに切った森林豹フォレストパンサーの肉を枝に刺す。

 火の周りに並べてしばらくすると、肉汁が溢れ出して香ばしい匂いが漂い始めた。


「心配なら無理に食わなくていいからな。もちろん俺は美味しく頂くが」

「もうっ、ヴェインさんってば意地悪な言い方っ!」

 

 ちょうどいい感じに焦げ目がついた肉にかぶりつく。

 じゅわりと溢れる肉汁は、危うく溺れそうになるくらいだ。


「うぅっ……!」

「やっぱりダメだったんですね!? ほら、出しましょ?」

「うまいっ!」

「んー、またそうやって紛らわしいことする! でも美味しいなら……」


 ロッカは恐る恐る肉に手を伸ばすと、まずくんくんと匂いを嗅ぎはじめた。

 その姿は犬か猫か、とにかく小動物のようだ。

 やがて意を決したのか小さな口で肉にかぶりつくと、とたんに顔を輝かせる。


「全く獣臭くないし、脂に甘みがあって美味しいですっ!」

「だろ? まだまだあるぞ」

「やったぁ!」


 

 なんだかんだ大満足の食事が終わると、ロッカはスキレットと包丁を鉄塊に戻した。


「やっぱり便利だな」

「私には過ぎた力ですよ。ちょっと前までただの小娘だったんですから」

「なぁ、その過ぎた力とやらで——」


 初めて撃った時からずっと考えていたことを口にする。


「俺にも魔銃マギシューターを作ってくれないか?」


 俺の頼みを聞いたロッカは顔を曇らせて、ぼそりと口を開いた。


「それは……」

「あ、金なら払うぞ? 蓄えはそんなにないから、分割で!」

「ごめんなさい、無理です」

「だ、だよな。すまん、忘れてくれ」

「いえ、そうじゃなくって……作ってあげたいんですけど、エコーライトがないんですよ」


 喉から手が出るほど欲しいと言っていたやつか。

 そうか、材料が足りないならどうにもならないよな。


「じゃあ俺もエコーライトってのを探してみるか。どうせ冒険者としての目標も見失いつつあったしな。もし見つけたら、そのときは頼めるか?」

「はい、もちろんです! じゃあエコーライトが見つかるまでは……はいっ」


 ロッカが銃を差し出してきた。

 黒い金属の塊が、月の光を反射してキラリと光る。


「ん、なんだ?」

「ヴェインさんに貸しておきますっ!」

「は……いいのか?」

「ええ、いいですよ。その代わりお願いがあります」


 ロッカが真剣な顔をして、俺の目をじっと見つめてくる。

 ぱっちりとしたヘーゼルアイを見ていると、吸い込まれてしまいそうだ。

 一体どんな無理難題が飛び出してくるのか。

 

「私と……パーティを組んでくれませんか?」

 

 そんなの可愛らしいお願いを聞き、俺はすぐに頷いた。

 前のパーティをクビになったところだし、こっちとしても願ったり叶ったりだ。


「やったぁ! わたし一人で心細かったんですよね」

「俺もちょうど寂くなったところだったからな」

「えへへ。戴冠者がふたりいるパーティなんて、なかなかないんじゃないですか?」

「確かにな。でもふたりだとパーティってよりバディだな」


 そう教えてやると、ロッカは「バディかぁ……」と目を輝かせる。

 会ったばかりだけど、この子はいい相棒になってくれるようなそんな予感があった。


「それじゃあ、これからよろしくお願いしますっ!」

「ああ、こちらこそ」


 俺とロッカは焚き火に照らされながら見つめ合い、そして握手をかわした。



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