『俺達のグレートなキャンプ74 異世界から来たドワーフとガンプラ(百式)作り』

海山純平

第74話 異世界から来たドワーフとガンプラ(百式)作り

俺達のグレートなキャンプ74 異世界から来たドワーフとガンプラ(百式)作り


「よーし!今回も最高にグレートなキャンプにするぞー!」

石川の威勢の良い声が、信州の山間に響き渡った。標高1200メートルの「はるか高原キャンプ場」。澄んだ空気が肺に心地よく、緑豊かな森林が風にそよぐ音が耳に届く。青い空には白い雲がのんびりと流れ、まさに絶好のキャンプ日和だった。石川の表情は輝いており、まるで子供が新しいおもちゃを手に入れたような興奮を隠しきれずにいる。

「石川、今回の奇抜な暇つぶしって何なの?もう74回目でしょ?そろそろネタ切れじゃない?」

富山が心配そうに眉をひそめながら、慣れた手つきでテントのペグを打ち込んでいる。トンッ、トンッという軽快な金属音が響く中、彼女の顔には長年の経験から来る不安の影が差している。石川の「グレートなキャンプ」シリーズがどれだけ常識外れかを骨身に染みて知っているのだ。過去の記憶が頭をよぎる——UFO召喚儀式で夜中まで踊り続けた第23回、忍者修行で木から落ちて打撲した第47回、そして前回の「恐竜の卵孵化キャンプ」では管理人に通報される事態に...

「おいおい、富山!俺を誰だと思ってるんだ?キャンプ界の革命児、石川様だぞ!」

石川は胸を張り、まるでヒーローのポーズを決めるかのように腰に手を当てる。その堂々とした佇まいは、客観的に見ればただの28歳のサラリーマンなのだが、彼の中では間違いなく世界を変える偉大な人物なのである。リュックから何かをゴソゴソと取り出し始める手つきは、まるで魔法使いが呪文の道具を準備するかのような神秘性を帯びている。

「今回はな...」

石川は劇的に間を置く。風が止まり、鳥のさえずりも一瞬静まったような気がした。富山は息を呑み、千葉は身を乗り出す。

「じゃじゃーん!『異世界から来たドワーフとガンプラ(百式)作り』だ!」

「は?」

富山と千葉の声が見事にハモった。その瞬間、近くでテントを張っていた家族連れの父親がペグハンマーを取り落とし、カランという乾いた音が響く。

「いや、石川さん!それは流石におかしくないですか?異世界のドワーフって何ですか?どこから連れてくるんですか?」

千葉が目をキラキラと輝かせながら身を乗り出す。彼の瞳には純真無垢な好奇心が宿っており、疑念を抱くという概念がこの男の辞書には存在しないかのようだ。手をわきわきと動かしながら、まるで宝物を見つけた子供のような表情を浮かべている。

「ハハハ!千葉、君はいつも良いリアクションをしてくれるな!」

石川は得意満面の笑みを浮かべ、リュックから小さな真鍮製の鈴を取り出した。陽光に照らされて金色に輝くその鈴は、どことなく神秘的な雰囲気を醸し出している。チリンチリンと軽やかな音色が響く。

「これは特別な鈴でな、異世界召喚の儀式に使うんだ!そして...」

さらにプラモデルの箱を取り出す。RG 1/144 MSN-00100 百式。金色に輝くモビルスーツが箱絵で威風堂々と構えている。箱の表面には細かいディテールまで描かれたメカニックが印刷されており、ガンダムファンなら垂涎の逸品だ。

「このガンプラを作りながら、ドワーフの職人魂と日本のモノづくり精神の融合を図るんだ!文化交流キャンプってやつだな!」

「石川...それ、完全にただのコスプレキャンプじゃない?」

富山が深いため息をつきながら頭を抱える。彼女の肩は小刻みに震えており、これまでの経験から来る戦慄が体を駆け巡っているのが分かる。しかし、心の奥底では、石川のこうした突飛な発想に対する密かな期待もあることを、彼女自身も認めざるを得なかった。

夕暮れ時。オレンジ色に染まった空の下、キャンプファイヤーの炎が勢いよく踊っている。パチパチと薪が弾ける音が心地よく響き、火の粉が星空に向かって舞い上がる。石川は厳かに鈴を振り始めた。その表情は普段の陽気さとは打って変わって、まるで古代の祭司のような神聖さを漂わせている。

「チリリン、チリリン...異世界の扉よ開け!ドワーフの戦士よ、この地に降臨せよ!」

石川の声が夜の静寂に響く。炎の明かりが彼の顔を下から照らし、普段よりも凛々しく見える。鈴の音色が山々にこだまし、まるで本当に何かが起こりそうな神秘的な雰囲気が辺りを包んでいる。

「石川さん、すごい!本当に何か起こりそうです!」

千葉が感激の声を上げる。彼の目は完全に信じ切った少年のそれで、拳を握りしめて震えている。一方、富山は呆れ顔でありながらも、長年の付き合いで石川の演技力の高さは認めざるを得ない。実際、この雰囲気作りの上手さは相当なものだ。

その時だった。

「グォォォォ!何者じゃ!ワシを呼び出したのは!」

突然、茂みの向こうから低く太いダミ声が響いた。声は山にこだまし、まるで大地が震えるような迫力がある。夜鳥たちがざわめき、風がぴたりと止まった。

「うわあああああ!本当に出てきた!」

千葉が椅子から転げ落ち、地面に尻もちをつく。ドスンという鈍い音と共に、彼の顔は驚愕で真っ青になった。富山も一瞬ビクッと体を震わせたが、すぐに冷静さを取り戻し、疑いの眼差しで茂みの方を見つめる。

「石川、今度は誰に頼んだの?」

しかし、石川も目を皿のように丸くしている。口がポカンと開き、鈴を持つ手が小刻みに震えている。

「えっ、俺何も頼んでないぞ?マジで?」

茂みから現れたのは、身長150センチほどの筋骨隆々とした男性だった。立派な白い髭を蓄え、革の前掛けをつけ、見るからに重厚な大きなハンマーを持っている。その髭は本物の年月を感じさせる艶と厚みがあり、前掛けには無数の小さな焼け跡や金属粉の汚れが付いている。どこからどう見ても、ファンタジー小説に出てくるドワーフそのものだった。しかも、そのリアルさは尋常ではない。コスプレの域を完全に超えている。

「ワシの名はグンダール!ドワーフ一族最高の鍛冶師じゃ!」

グンダールは胸を張り、ハンマーを地面に突き立てる。ドンという重い音が響き、地面に小さな振動が伝わった。その筋肉の付き方、立ち居振る舞い、そして何より放つ威圧感は、演技では到底再現できないレベルのものだった。

三人は呆然と立ち尽くす。炎の明かりに照らされたグンダールの姿は、まさに異世界からやってきた戦士そのものだった。

「え...えっと...本物?」

富山が恐る恐る震え声で聞く。普段冷静な彼女も、この状況には完全に動揺している。

「当然じゃ!この立派な髭を見よ!このハンマーの重厚感を感じよ!」

グンダールは胸を張って自慢げに語る。髭に手を当て、撫でるような仕草をする。その髭は確かに作り物ではない質感と重量感があった。ハンマーを持ち上げて見せるが、その重量は相当なもののようで、地面に置くたびにズシンという音がする。

「でも、でも、異世界なんて...」

富山の声は次第に小さくなっていく。

「あるんじゃ!ワシは元々、グレートホルンの山で武器や防具を作っておった!しかし、その鈴の音でここに召喚されたのじゃ!突然じゃったので驚いたわい!」

石川が震え声で呟く。

「ま...まさか...本当に召喚の儀式が成功したのか?」

「と、とりあえず...お疲れ様でした!キャンプファイヤーで暖まってください!」

千葉が慌てて椅子を用意する。しかし手が震えており、椅子をガタガタと音を立てながら引きずっている。グンダールは堂々と腰を下ろし、炎に手をかざして暖を取る。その仕草はごく自然で、まるで普段からキャンプファイヤーに慣れ親しんでいるかのようだった。

「うむ、礼儀正しい若者じゃな。ところで、ワシを呼び出した理由は何じゃ?まさか戦いか?武器が必要なのか?」

グンダールの目が鋭く光る。戦士としての本能が働いているようだ。

石川が意を決して説明し始める。

「あの...実は...ガンプラを一緒に作ってほしいんです」

「ガンプラ?何じゃそれは?食い物か?」

石川は百式の箱を取り出して見せる。箱絵の金色のモビルスーツが炎の明かりに照らされて、より一層神々しく見える。

「これです!人型の機械の模型を組み立てるんです!細かい部品を正確に組み合わせて、完成品を作るんです!」

グンダールが箱を手に取り、まじまじと見つめる。その目は職人のそれで、細部まで観察している。箱を裏返し、側面の説明書きまで読んでいる。

「ほほう!精密な工作物か!これは...なんと美しいデザインじゃ!この金色の装甲、この武器の造形...素晴らしい!ワシの職人魂が疼くのう!」

グンダールの目が急に輝いた。まるで宝石を見つけた時のような輝きだ。

「えっ?やってくれるんですか?」

「当然じゃ!ドワーフに作れないものなど存在せん!しかし...」

グンダールの表情が急に険しくなる。

「ワシは手抜きは一切せん!完璧を求める!覚悟はあるか?」

富山が安堵のため息をつく。

「なんか、意外にうまくいきそうね...でも、完璧を求めるって...」

翌朝、早速ガンプラ作りが始まった。朝露に濡れた草花が朝日に輝き、清々しい空気が流れている。石川がランナーから部品を切り出していると、グンダールが驚愛の声を上げる。

「なんと精巧な!この小さな部品一つ一つに魂が込められておるのう!しかし...」

グンダールの目が急に厳しくなった。

「その切り方は雑じゃ!」

「えっ?」

石川の手が止まる。

「ランナーからの切り離しが雑すぎる!部品に傷が付いておるではないか!やり直しじゃ!」

グンダールは石川の手からニッパーを取り上げ、お手本を見せる。その手つきは驚くほど繊細で、まるで宝石を削るかのような慎重さだった。

「こうじゃ!部品の魂を傷つけてはならん!」

「は、はい...」

石川が冷や汗をかきながら再挑戦する。しかし、グンダールの基準は厳しかった。

「まだじゃ!もっと丁寧に!」

「すみません...」

千葉も震え上がっている。

「グンダールさん、厳しいですね...」

「当然じゃ!職人たるもの、妥協は許されん!」

「ハハハ!グンダールさん、さすが職人ですね!」

千葉が感激しているが、実際は恐怖で足が震えている。

部品の切り出しだけで2時間が経過した。通常なら30分で終わる作業だったが、グンダールの厳しい指導により、一つ一つの工程が異常に時間がかかっている。石川の額には汗がにじみ、千葉は既にぐったりしている。

「次は合わせ目消しじゃ!」

「あわせめけし?」

「部品同士の継ぎ目を目立たなくする技法じゃ!これを怠る者は職人失格じゃ!」

グンダールは小さなヤスリを取り出し、髪の毛ほどの細かい作業を始める。その集中力は異常で、まばたきもしない。

「うお...すげえ集中力...」

石川が息を呑む。

3時間後、ようやく胴体部分が完成した。しかし、その出来栄えは確かに市販のキットとは別次元のクオリティだった。継ぎ目は完全に消え、表面は鏡のように滑らかになっている。

「これが...プロの技...」

千葉も息を呑んでいる。しかし、疲労は限界に達していた。

「グンダールさん...ちょっと休憩しませんか?」

「休憩?何を言っておる!まだ頭部、腕部、脚部、武器が残っておるぞ!」

三人の顔が青ざめた。

昼食後、作業は再開された。しかし、グンダールの要求はさらに厳しくなっていた。

「この関節の動きが悪い!分解して組み直しじゃ!」

「え〜〜〜」

石川の悲鳴が山にこだまする。

「そして、この武器の持ち方は間違っておる!」

グンダールは百式のビームライフルを見て首を振る。

「戦士たるもの、武器はもっとしっかりと構えねばならん!」

そう言って、グンダールは関節部分を独自に改造し始めた。小さなドリルで穴を開け、細いワイヤーを通し、可動域を劇的に改善していく。その技術は神業としか言いようがなかった。

「うお!めちゃくちゃポーズが決まってる!」

石川が感嘆する。確かに、グンダール流の改造で百式のポージングが格段にかっこよくなっていた。まるで魂が宿ったかのような躍動感がある。

「フフフ、これがドワーフの技術力じゃ!」

しかし、三人はもはや限界だった。石川は机に突っ伏し、千葉は椅子の背もたれにぐったりと寄りかかっている。富山は頭を抱えて座り込んでいる。

その時、隣のテントサイトから声が聞こえてきた。

「あの、すみません...何かすごいことやってません?」

振り返ると、若いカップルが興味深そうに覗いている。男性はガンダムのTシャツを着ており、明らかにガンプラファンのようだ。

「あ、すみません!うるさくしちゃって!」

富山が慌てて謝る。

「いえいえ!むしろ面白そうで...って、うわああああ!」

男性が百式を見た瞬間、驚愕の声を上げた。

「この百式...なんですかこのクオリティ!すげええええ!」

彼の興奮は最高潮に達している。恋人の女性が困惑している。

「タクミ、落ち着いて...」

「落ち着けるわけないだろ!見ろよこの合わせ目処理!この塗装の艶!これ、どこで買ったんですか?」

「買ったのではない!ワシが作ったのじゃ!」

グンダールが胸を張って答える。

「えっ?あの、その格好...まさかプロモデラーの方ですか?」

「プロモデラー?何じゃそれは?ワシはドワーフの鍛冶師じゃ!」

「ドワーフ...あー、なるほど!コンセプトモデラーの方なんですね!しかもこの技術力...神です!神がいます!」

タクミは完全に興奮状態だった。

「すみません、この人ガンプラが趣味で...」

恋人の女性が謝るが、タクミは止まらない。

「これ、実寸大ヘッドも作れますか?」

「実寸大?」

グンダールの目が光った。

「面白そうじゃな!やってみるか!」

「ちょっと待って」

富山が慌てて止めようとするが、既に遅かった。グンダールの職人魂に火が付いてしまったのだ。

「材料はワシが調達する!」

グンダールは森に向かって走っていく。その身軽な動きは、見た目の筋骨隆々な体型からは想像できないものだった。

30分後、グンダールは大量の木材と粘土のような物質を抱えて戻ってきた。

「これで実寸大の頭部を作るぞ!」

「あの...それ、どこから持ってきたんですか?」

富山が恐る恐る聞く。

「山の恵みじゃ!心配するな、自然に還る素材じゃ!」

グンダールは早速作業を始めた。その技術は異次元レベルで、見る見るうちに百式の頭部が実物大で形作られていく。木材は精密に切り出され、粘土のような物質で細部が造形されている。

「うおおおお!」

タクミの興奮は止まらない。他のキャンパーたちも次々と見学にやってきた。

「なんだこれ!」

「実物大ガンダムヘッド制作現場?」

「あの人、何者?」

見学者たちがざわめく中、グンダールの作業は続く。そして驚くべきことに、完成した頭部には金色の塗装まで施されていた。しかもその色艶は、まるで本物の金属のようなリアルさだった。

「これは...何という塗料を?」

タクミが震え声で聞く。

「ワシの秘伝の調合じゃ!金と銅、そして魔法の粉を混ぜ合わせたものじゃ!」

「魔法の粉...?」

「企業秘密ってやつですね!すげえ!プロの技だ!」

タクミは完全に信じ込んでいる。

昼食時になると、キャンプ場の他の利用者たちがちらほらと見学に来るようになった。実寸大の百式の頭部は圧倒的な存在感を放っており、遠くからでも目を引く。

「すみません、そのガンプラ、めちゃくちゃかっこいいんですけど、どうやって作ったんですか?」

ガンプラ好きらしい中学生が目を輝かせて聞いてくる。その後ろには友達らしい少年たちが何人も続いている。

「これはな、ドワーフの伝統技術を使っているんじゃ!まず、部品の魂と対話することから始まるのじゃ!」

グンダールが得意げに説明する。中学生たちの目がキラキラと輝いている。

「へー!ドワーフの技術ってすごいんですね!僕たちにも教えてください!」

「よし!では基本から教えてやろう!」

グンダールは中学生たちを相手に、ガンプラ制作の講習会を始めた。その厳しさは容赦がなく、中学生たちも次々と疲弊していく。

「先生...厳しすぎます...」

「甘い!職人の道は険しいのじゃ!」

「でも、このクオリティ...確かにすごい...」

中学生の一人が呟く。実際、グンダールの指導を受けた部品は、市販のキットとは別次元の仕上がりになっていた。

「おい、この人本物っぽくない?」

「でも、ドワーフなんて実在しないでしょ?」

「コスプレにしては凝りすぎてるよね...」

「あの技術力、普通じゃないよ」

見学者たちの間で議論が始まる。

石川はニンマリと微笑む。

「やっぱり俺のキャンプは最高だな!」

しかし、その表情には疲労の色が濃く現れている。

「石川さん、これ本当に大丈夫なんですかね?」

千葉が少し心配そうに聞く。彼も相当疲れており、声に力がない。

「大丈夫大丈夫!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるって君が言ったじゃないか!」

「そうは言いましたけど...まさかここまで本格的になるとは...」

夜になると、なんとキャンプ場の管理人までやってきた。

「あの、利用者の方から『本物のドワーフがいる』って通報があったんですが...それと、『実物大ガンダムヘッドの製作現場がある』とも...」

管理人の田中さん(50代)が困惑した表情でやってくる。懐中電灯で実寸大の百式ヘッドを照らすと、その金色の輝きに目を見張った。

「あー、田中さん!いつもお世話になってます!」

石川が愛想よく挨拶する。しかし疲労で声がかすれている。

「石川さんたちでしたか...また何か変わったことを...って、これはまた...」

田中さんは石川たちの常連ぶりを知っている。過去にも「UFO召喚キャンプ」や「忍者修行キャンプ」などで話題になったことがあるのだが、今回の規模は桁違いだった。

「今度はコスプレキャンプですか?それにしても、この造形のクオリティは...プロの方ですか?」

「コスプレではない!ワシは本物のドワーフじゃ!そして、これはワシの技術の結晶じゃ!」

グンダールが立ち上がって抗議する。実寸大ヘッドの前に立つその姿は、確かに異世界の職人そのものだった。

田中さんがまじまじとグンダールを見つめる。

「うーん...確かにリアルですね。どちらで衣装を?それと、この造形技術...どちらで学ばれたんですか?」

「衣装ではない!これはワシの普段着じゃ!そして技術は700年の経験で身に着けたものじゃ!」

「700年...」

田中さんは苦笑いを浮かべる。しかし、実寸大ヘッドのクオリティを見ると、冗談では済まされないレベルの技術力を感じ取っていた。

「まあ、他の利用者の方に迷惑をかけなければ結構です。でも、夜中は静かにお願いしますね。それと...この頭部、持って帰るんですよね?」

「もちろんです!」

石川が慌てて答える。しかし内心では、どうやって持って帰るかまったく考えていなかった。

「はい!気をつけます!」

富山が深々と頭を下げる。

翌日の午後、ついに1/144スケールの百式が完成した。そして実寸大ヘッドも含めて、すべての作業が終了した。

「うおおおお!すげえええ!」

石川が感動の声を上げる。確かに、グンダールの技術で改造された百式は、通常のものとは一線を画す迫力があった。関節の可動域が広がり、武器の保持力も向上し、なにより全体のバランスが絶妙だった。表面の仕上げも完璧で、まるで本物のモビルスーツを縮小したかのようなリアリティがある。

「これが...ドワーフの技術...」

千葉も息を呑んでいる。しかし彼の表情には達成感と同時に、極度の疲労が現れている。

「当然じゃ!ワシの700年の経験をなめるでない!」

グンダールが胸を張る。しかし、その表情にも満足そうな疲労の色が見える。

そして実寸大ヘッドは、もはや芸術作品のレベルだった。金色の装甲は本物の金属のような重厚感と艶を放ち、細部に至るまで完璧に再現されている。バイザー部分は半透明の素材で作られており、内側にはコクピットらしき構造まで見える。

「700年...」

富山が小声で呟く。もはや現実を受け入れるしかない状況だった。

タクミをはじめとするガンプラファンたちは、もう言葉を失っている。口をポカンと開けたまま、ただただ見つめているだけだった。

「先生...これ、販売とかしないんですか?」

中学生の一人が恐る恐る聞く。

「販売?何じゃそれは?」

「お金をもらって、作品を譲ることです」

「ふむ...金貨か?しかし、ワシの作品は魂を込めて作るものじゃ。簡単には譲れんのう」

その時、キャンプ場に大きな光の柱が立った。夜空を突き抜けるような眩い光で、まるで映画のCGのようだった。しかし、それは確実に現実に起こっている現象だった。

「おお!時空の扉が開いておる!」

グンダールが空を見上げる。その表情には名残惜しさと故郷への憧憬が混じっている。

「えっ?もう帰るんですか?」

千葉が寂しそうに聞く。疲労困憊でありながらも、グンダールとの別れを惜しんでいる。

「うむ、呼び出しの魔法は3日で切れるのじゃ。だが、楽しい時間だった!」

グンダールは完成した1/144の百式を石川に手渡す。その重量は通常のプラモデルよりもずっしりと重く、まるで本物の金属で作られているかのようだった。

「この『百式』は、ワシからの贈り物じゃ。大切にするのじゃぞ!」

「グンダールさん...ありがとうございます!」

石川が感激している。疲労で涙目になりながらも、その感動は本物だった。

「そして、この実寸大ヘッドは...」

グンダールは実寸大ヘッドを見つめる。

「この場に置いていこう。良いキャンプ場の記念品じゃ。管理人さん、よろしく頼む」

田中さんが慌てて駆け寄ってくる。

「え、えっ?置いていくって...これ、どうすれば...」

「大丈夫じゃ。雨風に負けん素材で作ってある。良い観光名所になるじゃろう」

確かに、この実寸大ヘッドがあれば、キャンプ場の名物になること間違いなしだった。

「また、機会があったら呼び出してくれ!今度はザクでも作ってみたいのう!もしくはドムも良いな!」

「はい!絶対に!でも、次はもう少し体力をつけてからにします...」

石川がヘトヘトになりながら答える。

光の柱がだんだん強くなる。見学に来ていた人たちも皆、その光景に見入っている。

「では、さらばじゃ!良いキャンプを続けるのじゃぞ!そして、常に完璧を目指すのじゃ!手抜きは許さんぞ!」

最後まで職人らしい厳しさを忘れないグンダール。

「はい!頑張ります!」

三人が声を揃えて答える。

グンダールは光に包まれて消えていった。光の柱も徐々に小さくなり、やがて完全に消失した。後に残ったのは、静寂とキャンプファイヤーの炎の音、そして圧倒的な存在感を放つ実寸大百式ヘッドだけだった。

「...本当に異世界に帰っていったのね」

富山が呟く。その声には、まだ信じられないという気持ちが込められている。

「でも、すごく楽しかったです!やっぱり石川さんのキャンプは最高です!」

千葉が満面の笑みを浮かべる。疲労困憊でありながらも、その笑顔は心の底からの満足を表している。

「ハハハ!これが俺のグレートなキャンプだ!」

石川も大満足だった。しかし、その笑顔の奥には「次はもう少し楽なテーマにしよう」という密かな決意が隠されている。

「あの...このヘッド、本当にここに置いていって大丈夫なんでしょうか?」

田中さんが困惑している。

「大丈夫ですよ、田中さん!きっと名物になりますって!」

石川が自信満々に答える。

その後、このキャンプの話はキャンプ場で語り継がれることになった。そして実寸大百式ヘッドは、予想通りキャンプ場の名物となり、多くのガンダムファンが聖地巡礼にやってくるようになった。

「『はるか高原キャンプ場の黄金の百式ヘッド』って呼ばれてるらしいよ」

「あの時の石川さんたち、本当に異世界からドワーフを呼び出したんじゃないかって...」

「でも、あのガンプラの出来栄えは確かに普通じゃなかった...」

「コスプレにしては凝りすぎてたよね...」

「あの技術力、プロでもあそこまでは...」

真相を知る人は誰もいない。ただ一つ確かなのは、石川たちの「グレートなキャンプ」がまた一つ伝説になったということだけだった。

帰り道、石川が運転する車の中で、千葉が完成した百式を眺めていた。その重量感と仕上げの美しさは、何度見ても飽きることがない。

「石川さん、次回のキャンプはどんなテーマにするんですか?」

「そうだなあ...今度は『宇宙人とラジコン飛行機作り』なんてどうだ?」

「うわあああ!それも面白そうです!でも...今度はもう少し優しい宇宙人がいいです...」

千葉の表情には期待と同時に、かすかな恐怖も混じっている。

富山が運転席の後ろから顔を出す。

「もう勘弁してよ...心臓がもたないわ...それに体力も...」

でも、その表情はどこか楽しそうだった。口では文句を言いながらも、心の奥底では次の冒険を楽しみにしている自分がいることを否定できなかった。

「俺達のグレートなキャンプ75回目、乞うご期待だな!でも、次はもう少し体に優しいテーマにしよう...」

石川の声が車内に響く。しかし、その目には既に次の企画への野望が宿っている。

「石川さん、それ本当ですか?」

千葉が疑いの眼差しを向ける。

「もちろんさ!俺だって学習能力はあるんだぞ!」

「でも、グンダールさんに鍛えられて、僕たちもレベルアップしましたよね!」

「確かに...あの厳しさを乗り越えたんだから、もう大抵のことは大丈夫な気がする」

富山も同感だった。

「そうだ!みんな、プロ級の技術を身に着けたんだ!次回はその技術を活かせるテーマにしよう!」

「えっ?結局また大変なことになるんじゃ...」

千葉の不安は的中しそうだった。

こうして、石川、千葉、富山の奇抜なキャンプは今日も続いていくのだった。そして、『はるか高原キャンプ場』には今日も多くのガンダムファンが聖地巡礼に訪れ、あの金色に輝く実寸大百式ヘッドを見上げて感動の声を上げている。

「やっぱり本物のドワーフが作ったのかな...」

「この艶と重厚感、普通じゃないよ」

「触ってみたいけど、なんか神聖な感じがして...」

実寸大ヘッドは今日も静かに、しかし威厳をもってキャンプ場を見守っている。そして時々、風に吹かれてかすかに光る金色の表面が、まるでウインクしているかのように見えるのだった。

『俺達のグレートなキャンプ74 異世界から来たドワーフとガンプラ(百式)作り』 完

エピローグ

それから1か月後、『はるか高原キャンプ場』の公式ホームページには新たな名物として「黄金の百式ヘッド」が紹介されるようになった。

『当キャンプ場の新名物!実寸大ガンダム百式ヘッド!某有名モデラーの方が制作され、記念品として寄贈されました。その圧倒的なクオリティと存在感を、ぜひ間近でご覧ください。触れることも可能ですが、大切に扱ってください。』

もちろん、「某有名モデラー」の正体が異世界のドワーフだったなどとは誰も知らない。知っているのは石川、千葉、富山の三人だけ。そして彼らは今日も、次なる「グレートなキャンプ」の企画を練っているのだった...。

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