No.1 『口説きテスト』『エスコートテスト』って…?

------玄関で靴を履く音。玄関を開ける音。音の主は俺。目の前には挙動不審の幼馴染、姫路綾。


「う、うわわわわわ!

 びっくりしたー…。

 あはは、ごめんごめん。

 朝の挨拶も『王子様テスト』に含まれるのかなって思ってたから、どういう挨拶すれば良いかなって考えてたんだ」


------俺は「じゃあそれやってみてよ」と言わんばかりの眼差しを向ける。


「え?

『やってみろ』だって?

 えー、でも…君にやるのはちょっと恥ずかしーかな……。

 ちょ、ちょっと!減点しようとしないで!あーもう、やれば良いんでしょ?」


------姫路は思い切ったように咳払いをし、その「挨拶」とやらをし始めた。


「んっんー……。

 朝の鳥のさえずりは耳に優しいね。

 とても元気が出そうだ。

 ああでも、君の声と顔の方がよっぽど力を与えてくれるよ。

 今日も僕の側にいてくれてありがとう」


------透き通るような声でそう言って姫路は俺の耳に吐息がかかるくらいにまで顔を近づけてきて、吐息混じりに俺に囁く。


「君の心も身体も全部僕のもの。大好きだよ、ダーリン」


------彼女は真っ赤になった顔を手で覆い隠す。スタタタッという遠ざかって行くローファーの音と、ボールペンがボードの上を走る音がする。


「ううっ、恥ずかしいよぉ…え?

『口説きテストは合格』なの?

 やったあ……っていうか口説いてないし!

 あと何だい?

 そのボード!」


「……で、次は『エスコートテスト』?

 エスコートってなに……って勿論知っているさ!

 えっと……そう!街中でカッコよく手引きするやつ!

 それをやれって?

 誰と……え?

 君と?

 わ、わかったよ。

 ふふっ僕のイケメンっぷり惚れないでよ?」


------得意気に鼻を鳴らす姫路。二人で通学路を歩く。緊張しているのか、無意識に顔を近づけてきている。そのためか彼女の吐息が耳にかかる。ローファーの音が二つ、断続的に鳴る。約2秒の吐息のみ聞こえる沈黙。


「……え?

『話を振れ』?

 えっと……そういえば君、結構背伸びたよね。

 昔は僕より頭一つ分小さかったのに、今では僕と同じくらい。

 すぐ隣に君の顔があるから、ちょ、ちょっとだけドキドキしてる……」


「……そういえばなんでずっと黙っているんだい?

 …学園屈指のカッコかわいい僕がずっと喋っているのに。

 お〜い……」


「無視している悪い子ちゃんは…えい!

 (かぷっ)耳を噛んでやる!

 んふふっ、びっくりした?

 みんなはいつもこれで喜んでいるんだけどどうかな?

 ん?

『ちょっとえっち』?えへへ……そんなことないよぉ」


------したり顔で俺を見つめる姫路。やがて学校についてガヤガヤと生徒たちが喋っている中、俺が結果を報告する。


「さあ!

 僕のエスコートはどうだった?

 もう自信しかないよ!

 完璧な満点合格でしょう?もうわかりきったことを…」


------俺は冷静に報告する。


「え!?

『エスコートテスト』不合格!?

 なんで!

 ……え、『エスコートどころかくっついているじゃないか』って?

 そんな訳な……まさかの証拠写真、どれどれ。

 見えるのは、腕に抱きついてい僕……。

 あはは……。

はたから見ればただの彼女』だって?

 う、うるさい!

 くっそう、くやしい……次回は合格してやる、待っててよー!」


------そう言いながら姫路は女子群の波に呑み込まれた。

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