第12話

「……全員から、デートの誘いが来た」


 放課後の帰り道、俺はスマホのメッセージ履歴を眺めて、頭を抱えていた。


 姫坂ほのかからは「土曜日の美術館」

 朝倉真央からは「日曜の河川敷、秘密の場所」

 星野みらいからは「火曜のゲーセンデート」

 南雲千景からは「水曜の放課後、保健室でお茶会」


 全員の言葉の最後に、同じ文が添えられていた。


 これは、最後のチャンスだから。


(俺は……答えを出さなきゃいけないんだ)


 そう思いながら、俺は――順番に、彼女たちと向き合うことにした。


 🌸【1人目:姫坂ほのか(美術館)】

 静かな展示室のなか、俺とほのかは並んで絵を見ていた。


「……静かだね」


「うん。でも、こういう空気、落ち着く」


「私、昔は“完璧”でいることに必死だった。

 でも、拓人くんと出会ってから……失敗しても、素直でも、

 そのままでもいいんだって思えた」


「……ほのかさん」


「好きになってくれて、ありがとう。

 私も、あなたを好きになれて、よかった」


 その手が、そっと俺の手に触れる。


 だけど、掴むことはしなかった。


 🔥【2人目:朝倉真央(河川敷)】

 真央が昔教えてくれた、秘密の河原。


「覚えてる? 小学生のとき、ここでバッタ捕まえてたの」


「懐かしいな。真央ちゃん、泣いてたのに、意地でバッタ掴んでて……」


「うっさい。……でもさ、そういう全部を知ってるの、

 私だけなんだよ?」


 真央はスニーカーのつま先で砂を蹴りながら言う。


「これからも、ずっとあんたの隣にいたい。

 笑った顔も、泣いた顔も、バカなとこも、誰よりも知ってたい。

 ……それって、ダメ?」


「ダメじゃないよ」


「……なら、最後に一つだけ。言わせて」


 真央は振り向いて、まっすぐ俺を見つめた。


「拓人のことが、大好き」


 💋【3人目:星野みらい(ゲーセン)】

 いつもより静かなみらいは、プリクラ機の前で立ち止まった。


「ねぇ、撮ろ? 記念にさ」


「うん……」


 撮影が終わって、写真を受け取ると、

 そこには手書きで文字が書かれていた。


“本気で恋して、初めて泣きそうになった相手”


「……あんたのこと、ちゃんと好きだよ。

 ウチ、恋愛なんて余裕って思ってたのに、全然勝てない。

 なのに、好きになってよかったって思えるの、初めてなの」


 みらいの笑顔は、泣きそうだった。


 ☕【4人目:南雲千景(保健室)】

 静かな放課後、ふたりで紅茶を飲みながら、

 千景先輩は言った。


「今日は、特別なお茶。好きな人にしか出さないんだって」


「……俺に?」


「うん」


 柔らかい香りの紅茶を口に含むと、不思議なほど心が落ち着く。


「選ばれなくてもいい。でも、

 私が“誰かを好きになれた”って事実は、ちゃんと伝えたかったの」


「……うん」


「今までありがとう、拓人くん。あなたと過ごした時間は、

 私の“新しいスタート”だったから」


 デートがすべて終わった夜。


 俺は、布団の中で天井を見上げながら、

 何度も、何度も自問する。


(俺は、誰を……)


(誰の隣にいたい?)


 心が、ゆっくり、ゆっくりと、あるひとりに傾いていく――。


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