第4話

それから奏太たちは、二度にわたり目当ての男のいる店を訪れた。


何度か足を運び、顔を覚えてもらうためだ。


そして四度目に店にやってくると、食事後にウェイターの彼に声をかけた。


「ちょっと、話があるんですが……」


奏太にそう言われ、ウェイターは途端に訝しい顔をする。


「何ですか?まだ仕事中なんですが」


いつも丁寧な応対をしてくれる彼だったが、この時ばかりは『何事か』と身構えたようだ。


声がやや強張っているように聞こえる。


「突然、すみません。僕はこういう者です」


そう言って、奏太と塩野は名刺をウェイターに差し出した。


「KANATA SHINDO?」


彼は、信じられない様子ながらも、受け取った二枚の名刺を凝視した。


「あの、あと三十分だけ待ってもらえますか?」


「わかりました。待たせていただきます」


奏太たち以外の客は既にまばらになっている。


待つ間、ウェイターはコーヒーを出してくれた。


オーディションはやらない運びになったが、果たして彼はモデルになるのを承諾してくれるだろうか。


奏太は緊張しながら時を待った。





それから三十分後、腰に着けていたエプロンを外し奏太たちのところへやってきた。


奏太たちの向かいに座った彼は、訝しげに奏太と塩野を見つめる。


「お待たせしました。俺に話があるとか……」


「その前に、あなたのお名前をうかがっても?」


そういえば、まだ彼の名前を聞いていなかった。


話をするなら、それからであろう。


「柴田ルキ」


「しばた、さんですか」


彼に似合った名前だと、奏太は思った。

すると、少しだけ眉間に皺を寄せたルキが尋ねる。


「それで、俺に何の用ですか?」


ルキの声はまだ警戒心が解かれていない。


「単刀直入に言いますが、あなたに我がブランドの専属モデルになって欲しいんです」


奏太の言葉に、男は目を見開いた。


「は!?」


信じられないといった様子の彼に、塩野が丁寧に今回の依頼の趣旨を説明した。


「俺が、専属モデルに?」


「そうです。もしかして、モデル事務所には入っていたりしますか?」


彼ほどのヴィジュアルなら、モデル事務所に所属していても不思議ではない。


もし既にモデルであるなら、育てる手間が省けるし助かる。


期待を込めて奏太が男に問うと、彼は「入っていますけど」と答えたではないか。


それならば話は早いし、すぐにでも事務所に連絡を取りたい。

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