第6話・宿屋『海の洞窟』

第5話に加筆を行いました。

(8/6 20:00)


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「それでは、冒険者ギルドの制度について説明していきます――」


冒険者ギルドとは、冒険者登録や除籍、依頼の斡旋に素材の買い取り、ランク昇格試験の実施や冒険者様同士での揉め事の仲介など、様々な業務を行う組合です。


そして冒険者様には、ランクが存在しています。

ランクは、達成した依頼の数や討伐実績、ギルドマスターの推薦などで上げることが出来ます。

また、全部で7段階に分かれており、上から、S・A・B・C・D・E・Fとなっております。


冒険者登録を完了した方には、先ほどベリルさんにお渡ししたような、タグをお配りしています。

これは冒険者証といい、皆様の冒険者としての証明書となっています。

このタグはランクごとに素材が決められており、こちらは上から、


Sランクーーミスリル

Aランクーー金

Bランクーー銀

Cランクーー銅

Dランクーー鉄

Eランクーー石

Fランクーー木


と、なっています。

先ほどもお伝えしましたが、冒険者証が破損する、または紛失してしまった場合、再発行には料金が発生するので注意してください。


次は、依頼の説明です。

依頼には、モンスターの討伐や薬草の採取、街の掃除、商隊の護衛といった種類があります。

これら依頼には全て、受注ランクが定められており、冒険者様のランクにあった依頼を受注することが出来ます。


そして依頼には、ギルドが出す常駐依頼、ギルドが仲介した受注依頼の2種類が、掲示板に貼り出されます。

常駐依頼の場合は、受注の必要がなく、受付に達成報告とその証明を行なってください。

受注依頼の場合は、紙を剥がして受付で提出することで、依頼の受注が可能です。


また、依頼主から冒険者様が指名を受ける、指名依頼というものがあります。

この場合は、掲示板を介さずに受付嬢から依頼内容を聞くことが出来ます。

そして、指名依頼は強制ではないので、拒否することも可能です。


あとは、依頼に失敗する、または依頼を取り消したりした場合は、違約金が発生しますので、自身のランクにあった依頼を受注しましょう。


「――。ふぅ、こんなところでしょうか。なにか、質問などはございますか?」


最後まで言い切った彼女はひと息つくと、俺に問いかけてくる。


「Fランクはどういった依頼が受けられるんだ?」


「採取依頼がメインですね。あとは簡単な討伐依頼とか、そういったものです。例えば――」


「ベリルー、ギルドについての説明は終わったかしら?」


リナリスに質問に答えてもらっていると、後ろからリーフが声をかけてきた。

俺は振り向きながら、彼女に返事をする。


「ちょうど終わったところだ。どうしたんだ?」


「そろそろ行かないと、宿屋に泊まれなくなってしまうわよ。ほら、もう日も暮れてるんだから。バルドとジグもすでに自分たちの宿屋に向かったわ」


「それは大変ですね! ベリルさん、続きは明日話しますから、早く行ってください!」


リナリスはそう言うと、受付越しに俺の背中を強く押してくる。


「わかったわかった! それじゃあ、また明日」


俺は振り向いてそう言うと、リナリスに手を振られながら、リーフと共にギルドから立ち去った。






「着いたわよ。ここが私おすすめの宿屋、『海の洞窟』よ」


そう言いながら、リーフ1つの建物の前で立ち止まる。

彼女は「ほら行くわよ」と俺を催促すると、そのまま扉を開けて中へと入っていった。


「いらっしゃいま、ってリーフお姉ちゃんだー! お帰りなさい!」


「ただいまマレアちゃん。今日やっとシーナギから帰ってきたの」


リーフに続いて中に入ると、彼女は小学生くらいの女の子に抱きつかれていた。

その子のことをリーフは自分からそっと離すと、俺の方を向いてくる。


「ベリル、この子はマレアちゃん。『海の洞窟』の店主の娘さんよ」


「もしかして、お客様ですか!」


マレアちゃんは俺と目が合うと、喜んだ様子でそう尋ねてくる。

俺がその言葉に頷くと、彼女は「やったー!」と両手を上げて飛び跳ねた。


「おーいマレア。そんなおっきい声出してどうしたんだ……って、エルフの嬢ちゃんじゃねぇか! やっと帰ってきたのか!」


受付の奥の方から、大柄な坊主の男がそんなことを言いながら現れた。


「久しぶりね店主さん。新規のお客さんを連れてきたわよ」


「それはありがたい嬢ちゃん! どうもお客さん、宿屋『海の洞窟』へようこそ」


そう言いながら店主が綺麗にお辞儀をして来たので、俺もお辞儀を返す。


「店主さん、とりあえず彼の1週間分の宿泊代よ。色々あって、彼は今お金を持ってないのよ」


そういえば忘れていた、俺は今一文なしだったんだ。

ただ、だからといってリーフに払ってもらうのはすごく申し訳ない気持ちになる。


「このくらい、先輩に払わせてちょうだい。ま、いつかベリルがたくさん稼いだら何かで返してもらうからね!」


彼女は袋から硬貨のようなものを取り出すと、受付に重ねて並べる。

マレアちゃんはそれを集めると、どこかに仕舞いに向かった。


「そうだおふたりさん。今から夕飯作っちゃうから、そっちの食堂で座って待っててくれ!」


そう言うと店主は、駆け足で裏の方へと戻っていってしまった。


「それじゃ、座ってようか。楽しみにしててねベリル、ここの食事は本当に美味しいから」


俺はリーフと話しながら、食堂へと向かって行った。






「お待ちどおさん! 今日のメニューはフレイルフィッシュの煮付けだ。それと、ご飯と味噌スープセットだ」


「ッ!? こ、これは!?」


俺は目の前に出された料理に、衝撃を受けた。

並んでいるのはどう見ても、白身魚の煮付けに白米、それと味噌汁だったからだ。

明らかな日本食が異世界も宿屋で出てきたことに、俺は強い困惑を覚える。


「あん? ああ、もしかしてお客さん、東国料理は初めてか!」


「とう、ごく?」


「この大陸の東にある島国の、伝統料理のことよ。こっちとは全く違った食事で、ナートレアじゃここでしか食べれないのよ?」


なるほど、地球でいう日本のような国が、この世界にもあるんだな。

俺はリーフの解説に対して、そんなことを考える。


「それじゃあ食べましょうか。精霊よ、自然の恵みに感謝を」


彼女は手を合わせながらそう言うと、一緒に運ばれてきていた箸を手に取る。

そのまま箸で白身をほぐすと、身を掴んで口に運んだ。


「ん〜! やっぱりお魚が1番ね! ほら、ベリルも食べてみて」


「……ああ。い、いただきます」


俺は彼女に催促されて、箸を手に取った。

そして彼女と同じように白身をほぐし、掴んで口に運ぶ。

無言で白身を噛み締めた俺は、すぐにご飯を頬張った。


「……美味い」


こんな美味い煮付けは久しぶりだ。

最近はゲームばっかで、ろくに家も出てなかったからな。


「ね? 美味しいでしょ?」


そう言うとリーフは、可愛らしい笑みを浮かべながら白身を頬張る。


「それにしてもリーフ、さっきナートレアじゃここでしか食べれないって――」


「魚って、肉よりも腐りやすいじゃない? 港町のシーナギからこの国までって、結構な距離があるのよ。だから魚がなかなか流通しなくてね」


「あー、なるほど。つまり、魚は肉より高いんだな?」


「そういうことよ」


彼女はそう言うと、白身を食べて味噌汁を飲む。


「それに私、肉はあんまり好きじゃないのよねー。まあ野菜ばっか食べて育ったからだと思うけど。でも魚は美味しくて大好きなのよ」


エルフってやっぱり、菜食主義的なところがあるのだろうか。

俺はリーフの話を聞いてそんなことを考えながら、白身をご飯の上に乗せて一緒に頬張った。






「それじゃあ、私の部屋はこっちだから。おやすみなさいベリル」


彼女はそう言い終えると、ひらひらと手を振りながら通路の奥へと消えていった。

俺は先ほど店主から受け取った鍵を手に持つと、目の前の部屋のドアノブに差し込む。


「おお……なかなか広くて綺麗な部屋だな」


俺は部屋のドアを開けると、そんな言葉を呟いた。

すぐに目に入ったのは、小型のキッチンとソファにテーブル、そして大きめのベッド。

中に入っていくと、横側にはトイレとお風呂が設置されていた。


「なんというか……異世界って、想像よりハイテクなんだな……」


中世ヨーロッパであれば、明らかなオーバーテクノロジーである。

俺はドアを閉めると、部屋にあった魔導具のランプを、リーフの説明通りに魔力を込めて起動した。


「よし、それじゃあ……」


そのままベッドに腰掛けた俺は、「《召喚》」と禁魔書を呼び出す。

そして俺は、一言呟いた。


「《依代召喚サモン・アスト》」

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