第4話 大衆居酒屋グラテマル ④
「お待たせしました。串盛りです。手前から、トリの心臓、砂ずり、肝臓、もも。野菜串はベーコントマム、キノコになります」
「どうも」
この店のウリでもある串焼きが到着。塔中層でその日とれた新鮮な食用肉をつかっているので、肉の鮮度がすごいのだ。
店専属の冒険者がいて、そこから直接仕入れているらしく、肉質と比べてもだいぶリーズナブルな値段で提供しているのだとか。
この店の大将ももともと冒険者だったらしく、かつての伝手を利用して自分のこだわりを実現しているのだという。
前に声のでかい常連客が、長々とそんなことを話していた。それをひとり呑みしながら、聴いていた覚えがある。
「すいません、追加でスペシャルモレンサワーを」
「かしこまりましたぁ!」
追加注文を受けた給仕の子が元気に返事を返す。
ここは活気あるけど、馬鹿ウルサくなくて良い感じ。居酒屋の中には、とにかく大きな声だせばいいみたいな店もあるが、個人的にあまり好きではない。店員の方も若干ムリしているのが見えるときがある。何事も自然でいいのよ、自然で。
このタイミングで追加のお酒をオーダーしておけば、串焼きを前にしてドリンクなしで挑むという事態は避けられるだろう。無くなる少し前に頼むことで、お酒の切れ目を無くすという準備である。
何事にも備えておくというのは、冒険者の道にも通ずるものがある。
さて、
メインともいえる、串盛りも来たことだし、しっかりと向き合っていこう。
ここの串焼き盛り合わせは、おまかせもできるが、コレを入れてといえば入れてくれるので、けっこう融通が効く。
また、肉串5本か肉串4本に野菜串2本のどちらにするかの選択制。これでお値段は60ウェン。もちろん1本から、個別に注文できる。
はじめて来た人は盛りで頼んで、気に入ったのを見つけるのが定石だ。俺の場合は、この店はのはどれも好きなので、方向性だけ決めて、あとはお任せしてる。
今回の注文はトリ肉の内臓系入れて野菜串ありで。味付けは塩。タレもあるけど、まず塩でいきたい気分なのである。タレは後半な(ネタバレ。
内臓系は本当に鮮度によって味が変わるから、あまり美味しくない店にあたると、だいぶ悲しくなる。
その点、この店はそんな心配は無用。
新鮮な肉をその日に丁寧な下処理をして提供しているから、安心して食えるんだ。
今回は頼む予定はないけど、ここは内臓系をつかう煮込みもいい。臭みなんてまったく無いからね。
野菜攻勢によって、肉に対する欲望はふつふつと高まっているところ。
そんな中目の前に現れた肉。
さて、先陣は心臓からいかせてもらおうか。
良く焼かれて身が締まった一口サイズのトリの心臓が、ひと串に4つほど。お店によって、平たく開いてあるタイプもあるが、ここではけっこう厚みを持たせている。
欲望に任せて串をそのままがっつく。
それも2つ一気に、だ。
もぉ、――ぷりっぷりっ!
生命活動を支える器官ゆえのその力強い抵抗、それに負けじと歯を力任せに突き立て、噛みちぎる。
すると、中からあふれ出てくる旨み。脂を伴う肉の部分とはまた違う、滋養と力強さを感じさせる、トリ本来の、生命の味。そんな生命の源泉が噛めば噛むほどに溢れ出し、口内を塗りつぶしていく。
ここで、しっかりと振られた塩が、よく効いてくる。
ともすればぼやけそうな膨張する旨みの爆発に、くっきりとした輪郭をたたせながら、それでいてトリの味を引き立てる。やっぱ、塩さんはすげぇや。
塩さんが言いたいことは解ってる。
酒、呑まずにはいられない。
はじまりから付き添ってくれた、麦酒ももう、あと3分の1を残すのみ。名残惜しさもあるが、いつまでもこのままではいられない。
もう、さきへ進まなきゃ、な。
あぁ大丈夫。お前の志は次のモレンサワーが引き継いでくれる。
今までありがとう。お前がいたから、ここまでこれた。
本当に幸せな時間、だった。
サヨナラは言わないよ。またな。
――――ゴクッゴクッ
ぷはぁ~。さいこー!!
串焼き盛り合わせ 60ウェン
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