第2話 大衆居酒屋グラテマル ②

 ギルドでのあれこれを終え、報酬を終えた俺は一度、賃貸アパートに戻って、シャワーで冒険の汗を流した。

 そうして夕暮れの街へと繰り出していく。


 今日の店は、居酒屋グラテマルという大衆居酒屋。

 激安居酒屋よりはちょい値段帯は上がるけど、料理のクオリティもその分ぐーんと上がるコスパの良い街で人気の居酒屋だ。

 実はもうちょいお高いところにいこうかななんて思っていたんだけど、ふらっと覗いた本屋で面白いそうなのを何冊か衝動買い。軍資金を減らしてしまった。


 -200ウェン


 というわけで勝手知ったる普段使いの店へ。

 大通りをからちょっと脇にそれ、いくつかの飲み屋が建ち並ぶ小路の一画に、一際目を引く味のある文字で「グアテマル」と大きく書かれた看板が見えてくる。

 串焼きの煙が鼻をくすぐり、ハッピーアワー中というノボリがおいでおいでと手招きしているかのようだ。

 俺は誘蛾灯にひかれる羽虫の如く、店内にふら~っと吸い込まれて、気付いたらカウンター席に腰掛けていた。

 店内を見渡すと、もうすでに半分以上席が埋まっている。

 労働終わりの同輩や、昼からやっているだろう諸兄方。割と若い女の子なんてのも普通にいたりする。

 この店はここいらでは、評判のウマくて安い店、なのだ。

 さて俺自身も今この時から、ただのひとりの呑兵衛とあいなって、ウタゲをひらくといたしましょうか。


 まず、一手。

 ハッピーアワーの時間終了直前ギリギリ入店だったので、すかさず注文を入れる。

 仕事終えて、まだ何も口に入れていないので、喉はカラカラ。

 オシボリで手をふきふきしながら、ドリンクがくるまでの暇つぶしに今日のお薦めが書いてある黒板を見る。

 黒板には白チョークで色々書いてあるけど、でも実はそこまで活用しないんよ、この黒板。

 俺の場合、いったことある店ではすでに定石が決まっている場合が多い。

 ここグラテマルも、すでにそれが確立されつつあるぐらいには利用しているのだ。

 まぁアドリブ枠も設けているので、気になるヤツはそこで頼んでみてもいい。


「お待たせしました。こちらナマ中ふたつと、お通しの茹で豆です」

「どーも。あっ、注文もいいですか?」

「はい、どうぞ」


 さぁ、お待ちかねの生麦酒がやってきました。

 それも一杯目は秒で片づくので、2杯同時注文。これで1杯分の料金なのだから、ハッピーアワーってすごい。

 すでに第一陣の注文は済ませたので、後は飲み始めるだけ。

 キンキンに冷えて、表面が薄白く凍っているジョッキを手に取り、そのまま口元に持っていく。


 ――ゴクッゴクッ


 くぅ~、たまらん。

 なんだ、この殺人的な美味さは。あっという間にジョッキ半分消えていった。

 このまま勢いに任せてもう一口、といきたいところではあるが、そんな拙攻では後が続かない。せっかく夜は長いのだ。

 ここはいったん酒精、いや守勢に回って、お通しで体勢を立て直すことに。

 まだほのかに温かい殻付きの茹で豆を口に頬張り、ぴゅっと飛び出すお豆を受け入れる。

 ほんのり青臭さを感じる大地の味と殻にまとわりつくまろやかな塩気が、良い感じに相まって、口の中に夏の田園風景を創り出す。

 あっ、こいつはダメだ。

 間を置くために投入したこの茹で豆は、麦酒からの回し者、「トライの木馬」でありやがった。

 口内が先ほどより明確に、黄金色の大軍勢を今か今かと待ち望んでいる。

 もうここに至っては、全面降伏。

 ジョッキを手に、残りの麦酒を速やかにオールイン。全面開門し黄金色の優勝をいまかいまかと待ち望む喉へと、導いていく。

 なるほど、故に「お通し」か。


 ということで、一杯目完飲。

 でも、いいんだ。

 俺にはあるんだ、――2杯目が。


 ハッピーアワーでドリンク半額だから、2杯飲んでも、一杯分の料金。

 あぁ、幸せって、ここにあったんだ。



 麦酒 15ウェン(ハッピーアワーのため半額)×2

 お通し 18ウェン

 

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