第1話 大衆居酒屋グラテマル ①
塔のふもとからはるか頂を見上げながら、ふっと息を吐き緊張を解く。
あぁ、今日も無事に帰れて良かった。
外の時刻は夕暮れの少し前ぐらい。
安全第一を心がけ、無理のないようにピークタイムの前には帰ってくることを心がけている。
塔の出入り口のすぐそばにあるギルドセンターに入り、無人精算機を利用する。
低層で特殊なドロップがあったわけでもないので、基本的にドロップアイテムは全部換金するのみ。有用なのはもっと上層に行くまででてこない。それだったらわざわざ受付を利用することもなく無人精算機でさらっとやってしまうのがいい。
ギルドパスを端末に読み込ませて、個人のページを出す。そこでドロップアイテムの換金手続きを選択する。
精算機の脇にある、ダストシュートみたいなドロップアイテム入れに今日の取得物を突っ込んで、そのまま査定を待つ。
チーン
報酬金額:3300ウェン
少し待っていると、精算機から音を鳴って、査定作業完了の知らせ。間違いがなければ、画面上の了承のボタンを選択して終了。
ちなみにお金のやり取りは、オールキャッシュレス。ギルドパスに銀行口座なども紐付けされているので、入金作業などもその場でスムーズに行える。
ベバルの塔のお膝元であるここ【冒険都市ドレム】では、塔由来の最新技術のおかげで、他のどの都市よりも先進的であり最先端技術が広く普及しているのである。
さて。
3300ウェン。
この金額は俺にとって、そこそこいいけど、ものすごく稼げたかといえばそうでもない、まぁいわゆる普通によくやれたかなぐらいの稼ぎである。
一般的な商会とかの初任給がだいたい15000ウェンぐらいといわれているから、およそその5分の1を一日で稼ぐとなれば、だいぶ儲かる商売のようにみえるが、命をベットしてのこの稼ぎだとすると、費用対効果としてどうかともおもう。
まぁ、まだ駆け出しなのだから、これから探索が進むにつれ、手に入る報酬も桁違いに上がっていくから、夢があると言えば夢があると思う。
そのときはそれに応じてリスクも増えていくのだけれど。
この報酬3300ウェンのうち、半分は将来のための貯蓄に回す。換金したお金をそのまま貯蓄用の口座に即座に振り込んで、後はもう放置しておく。
そうしてもう半分を普段使いの口座に入金。普段の生活費とかは全てここから出している。
この1650ウェンのうち、これまた半分は消耗品の補充や各種支払のための分として、基本的には使わないようにするお金である。
冒険者業は出費もそれなりに多いので、ある程度は持っていないと、いざという時に困る。
そうして残りの825ウェンが、今日ぱーっと使っていい分のお金となる。このお金に関しては、明日以降に残そうとか考えないでいい。
800ウェンもあれば、冒険者用の安宿ではなくちゃんとした観光用の宿で一泊できる。それを好きに使えるというのだから、中々の額だと思う。
これは冒険者をはじめたときに、自分の中で決めたマイルール。貯める分は貯め、遣うときはぱーっと遣う。そういうメリハリのある生活こそが、よりよい冒険者生活に繋がるのである。
このマイルールは、冒険者のやり方を教えてくれた人に聞いたやり方を参考にしている。駆け出しの内はこうやって配分を決めて、自分を律する仕組みを自分の中に作り上げていくのが重要なのだとか。
このやり方の場合、稼げなければ自然と節約するし、もし大きく稼いだとしても上限を決めとけば、羽目を外しすぎない。
今どき宵越しの金は持たないというやり方は、さすがに時代遅れだが、急に入った大きいお金に身を持ち崩すっていうのは、普通によく聞く話だからね。
かといって将来を見据えすぎても、どこかでパンクしてしまうので、稼ぎ次第でいい思いができるというのは、モチベーションの維持にいい。
この案配がちょうどいい感じなのだ。
さて、今日の予算825ウェン。
これだと居酒屋でだいぶ豪遊してもまだ余るけど、少し高級な店だとちょい心許ないぐらいのお金である。
しっかり飲み食いした後に、甘いものにいくぐらいがちょうどいい感じだな。
よしソレでいこう。
精算機での手続きを終えた俺は、本日の冒険の後処理をさっと済まして、ギルドをあとにした。
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