第41話 面倒な依頼

「ああああぁー。終わっちゃう~」


 相変わらずベッドの上でジタバタしてる、ホント学習能力の無い愛妻カナブンを横目に、亀沢孝矢は、飛び込みの電話に辟易してた。


「頼むよー。これは亀沢君にしか頼めないんだ」

「だから、スケジュール的に無理があるんです。第一、俺は個人では依頼を請け負ってません。兎波運送会社を通して下さい」


 どうしても急ぎで届けなければならない書類があって、公印押印が必要不可欠な為にFAXや電子書類メールではダメなんだそう。プラス収入印紙付の領収書も有るとの事。


 面倒なのは、マトモなルートじゃ約束の時間に間に合わないって事だ。

 どんなにスピード違反して頑張っても、指定時間のお届けは厳しいと思う。が、1つだけ方法がある。


 マトモなルートじゃなければいい。

 こう言うと語弊があるか…。ようは、山越えの林道ルートを行く事だ。名ばかりの県道114号、通称猫路と呼ばれるこの林道ならば、最短距離で突っ走る事が出来る。


 が、コイツは狭く未舗装の、どこが県道なんだと県の土木課にイチャモンつけたいくらいの道で、ウチの四駆軽貨物車でも通り辛い上に、木の根の為に?って思う程の坂道まであって。


 コレを突っ走るのは、中型オフロード車しか無いって話。

 兎波運送ラビッツ・カーゴには、それ用のXR250ってバイクがあるけど、こんな依頼でも無いと使う事は無い。しかもが必要だから、ある程度のテクが無いとどうしようもない。


 ウチで、そんなテク持ってるのは、二輪部主任バイクチーフ春口さん春兄ィか、…俺かって事になる。


 が、この依頼主は、春兄ィと相性が悪い。

 ちょっとモラルって言うか、カス・ハラ気味の相手なんだよね。


 俺個人に直で頼んでる事からも察してくれ。


 でも今日は、これから…って言うか、お昼に金井カナブン母娘と食事に行く事になってる。日和さん文香ママの休みも重なって、こんな機会も滅多に無いしって事で。


 この依頼受けると、今日の予定は吹っ飛ぶ。


 今から会社へ行き、XRを受け取って依頼先で書類を受領し、届先へ行くとお昼前だ。

 午前中指定の配送だから、仕事的には大丈夫。

 でも、12時に食事の約束してる。


「あー、それじゃ兎波さんに至急依頼する。頼むよー」


 依頼者~城北工業の工場長は、コッチの返事も聞かずに電話を切ってしまった。


「何よ!今の強引な電話‼︎」


 スピーカーモードにしてた訳じゃないけど、工場長あの人の声は大きく、少し耳を離さないと難聴になりかねないんだよ。

 だから、金井カナブンにもまる聞こえ。


「ユキヤ?」

「強引なんだよね。しかも城北工業そのものは兎波運送ラビッツ・カーゴのお得意様だ」

「ユ!・キ‼︎・ヤ⁈」

「社長判断だから…」


 スマホが鳴る。

 この着うたは、社長夫人兎波の奥さんだ。


「はい」

「夏休みにごめんなさい。緊急の指名依頼。直ぐに来て欲しいの」


 やっぱり。


「孝矢君、仕事を優先して。食事は夜にしましょう」


 日和さんの声?

 あれ?兎波の奥さんからの電話の筈なのに。

 慌ててスピーカーモードにすると。


「忘れ物があってね。事務所に顔出してたのよ。孝矢君、あの工場長オッサンの依頼を断ったら何言われるか分かったもんじゃないわ」


 確かに。


「文香?」

「…オッケ」


 これは、納得してねぇな。


 必殺!後ろからのハグ。


「もう。毎度毎度、これでアタシの機嫌が…ひゃん!」


 着てるのは、いつものブラトップ。

 中に手を滑り込ませて、直揉みする。


「う、…ん、あ…、やん」

「俺も、こうして文香とイチャイチャしたいんだ」


 名残惜しいけど、手を抜いて離れる。

 やべぇ。金井カナブンの表情が…、マジで可愛い。


「行ってくる」

「うん。行ってらっしゃい」


 少し上気したピンクの頬で、幸せオーラダダ漏れの金井カナブン


 久々に、アイツの周りにハートマークや音符マークが花びらと共に廻ってるのが見えた気がするよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る