第15話 元カレが来た

 もうすぐ夏休み。

 まぁ、何の予定も立てて無いけど。


 トラブル?だけはやってきて…。


「お前か?あの女の今のカレは?」


 学校へ着いた俺が、指定の駐輪場へスクーターを停めてる時だった。


 そこに待っていたのは、2年の、イケメンでチャラ男で有名な一橋凉真先輩。長身茶髪で青ネクタイを緩く締めて、第1ボタンを外してる。ベルトには、金チェーンが付いてて。はめてる腕時計も、見るからに高級品て言えそうなデカいヤツ。


「あの女が金井カナブンを指してるのなら、そうですが?2年の一橋先輩ですよね?」


 ヘルメットをスクーターのトランクに格納しながら俺も応えた。


「流石にオレの事は知ってるか。まぁ、オレはこの学校でも有名人だからな」

「…ええ(軽薄チャラ男なスケコマシとしてね)。で、そんな有名人な先輩が何のご用で?」

「オレのお古とは言え、お前如きが相手カレシというのは納得いかねぇんだよ」

「はぁ?何の言いがかりですか?」

「まぁ、オレに捨てられてアイツも次がすぐ欲しいのはわからんでもないがね。ビッチのくせにあまりヤらせてもくれない女だったが」


 週末やテスト明け。

 俺んちに泊まる時は、とても甘えてくる金井カナブン。あまりヤらせてもくれない、その言葉にかなりの違和感を感じてた。


「ビッチのくせに?」

「知ってんだろ?アイツ、中坊ん時からヤリまくりなヤツだって」


 噂はある。

 実際、中3の一時期、金井カナブンは金髪ギャルで外泊し、色んな男と関係を持ってた。


 でも、俺はその時期の金井カナブンの心壊れ掛けてた内面を知ってる。


同じ中学オナチューです。多分、アナタより詳しいですよ。色々とね」

「…チッ。じゃあ、アイツが軍団と繋がりがある事は?」


 薄っぺらいな。せっかくだ。少し脅しとこう。


「俺も、そうですよ」


 先輩の顔色が変わった。


 こちとら、伝説の総長といわれた春口さんの弟分だ。現総長の飛場さんとだって面識あるよ。軍団は、確かに無敵の県下に名高いチームだけどね。個々の皆んなは、ただのバイク好きが集まった、気のいい人達なんだよ。


「おま、そんなスクーターに乗ってて」

「学校にホーネットで来るワケ無いじゃないですか」


 しれっと、バイトで使う社用車を言う。


 HONDAホーネット。

 ちょっと前の中型250ccバイク。異様に太い後輪が特徴的な、乗りやすいネイキッドタイプのロードスポーツ。


 どうやら先輩は、バイクの事等全く知らないみたいだ。まぁ、興味ない人にとっては、こんなモンだろう。何かの族車でも思い付いたのかな?


「チッ」


 先輩は急に態度を変え、去っていった。


「何だったんだよ」


 翌日。

 俺が軍団の一員だという噂が広まっていた…。

「やってくれたな、ったく」


 流石に聞き捨てならなかったのだろう。

 俺は戸畑先生戸畑っちに放課後、呼び出されてしまった。


「一応、確認しないとねー。亀沢君は、暴走族の一員なの?」

「先生、それマジに聞いてるの?」


 職員室の一角。戸畑っちの机のトコで。

 だから、周りって言うか、あちこちに先生達がいて。


「で、どう?」

「違いますよ。ってか、ココじゃ、『違う』としか答えませんけど」


 横から声が飛ぶ。


「授業態度とか、色々な。戸畑先生担任ならずとも日頃の亀沢を見てりゃ、それが馬鹿げた話だと誰しも思うよ。教師の目を、そうそう欺けるモンじゃないからな」


 学年主任の神谷先生。

 生活指導も兼ねてるこの先生も、俺の事情は知ってる訳だから。


「と、言う事、ね。でも、本人の口から確認しないとね」


 わざわざ職員室で聞く事も、そう。

 どうやら、他の先生達も人騒がせなデマとしか思ってない様だ。

 呆気なく解放され、俺は職員室を出る。


 と、本館から1号館への渡り廊下で。


「職員室へ呼び出しか。停学かな?」

「違う、と言ったんでお咎め無しです。どうやら先輩とは、先生の信用度が違うみたいですよ」

「て、テメェ!」


 拳を握る先輩に。


「そんな細腕でどうしようと。俺、腕っぷしは先輩には負けませんよ」


 日々、配達で力仕事してる。

 半袖シャツから覗く二の腕は、かなり太い方だと自負してるよ。

 それに、春口さんハル兄ィからは色々教わってるんだぜ、俺も。


 とかね。


「チッ」


 虚勢って、誰が見てもわかる舌打ちで、先輩は去っていった。


 …何がしたかったんだろうね、マジで。

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