第2話 継承試練2

《継承試練(けいしょうしれん)》が、幕を開けた。

その宣言とともに空気が変わった。

中庭を包んでいた静寂が石を投げ込まれた水面のように静かに波紋を広げていく。

観戦席の生徒たちが息を呑み教師たちの視線が、試練の舞台に注がれた。

ここはただ戦うだけの場所じゃない。

名前を持っていようがいまいが自らの《信念》を“言葉”にできるかその価値を試される場所だ。

視線を前に向ける。

対峙する二人の少女がまっすぐこちらを見据えていた。

一人は、深い紺の髪を風に揺らしながらどこか不安げな面持ちで立っている。


久遠 澪(くおん みお)。


屋号 青嵐(せいらん)風に寄り添い風を読む者に与えられる称号。

空気の揺らぎに感情を重ね詠唱によって術式を導く異能。けれどその風は今もなお迷っているように見えた。




もう一人。

白い髪を後ろで束ね、軽やかな姿勢で構える少女

 

白鳥 舞(しらとり まい)。

白翼(はくよく)まだ仮の名ではあるが、その屋号を背負い、この試練に挑む。

 

彼女の術式舞の律(まいのりつ)は跳躍と加速に特化した身体術と最小限の補助詠唱によって構成される連携型のスタイル。

支援と牽制そして空間を舞うような機動。

 

その在り方は、未だ正式な継承に至らずとも、確かに《白翼》の名にふさわしかった。



明るく振る舞いながらも、鋭く空気を読み、仲間を支える覚悟を秘めた少女。

そんな舞が、隣にいる澪の手をそっと取った。

「大丈夫、澪。ここまで来たんだよ。きっと、大丈夫だから」

その声は優しく、けれど芯のある響きだった。

(強そう‥)

率直に、そう思った。

久遠さんも、白鳥さんも。

すでに屋号を持つ記録された存在たちだ。

それでもなおこの試練に挑む。

その姿勢に僕は強さを感じた。

僕にはまだ“そんな言葉”がない。

けれどその在り方をどこかで羨ましく思った。

視界の端で緋月さんが動いた。

手のひらを前に静かに構えを取る。

その指先には、淡い陽光のような光が滲んでいた。

屋号 赫陽(かくよう)

照らす光として、誰かを導く者に与えられる称号。

その陽の律(ひのりつ)は支援にも攻撃にも応じる柔軟性を持つ詠唱術式。

彼女の信念は「誰かの隣にいるため」ではない。

自分が誰かの暗闇を照らす光になりたいという、個人的でまっすぐな願い。

その想いがいま“言葉”になろうとしていた。

緋月さんの瞳がまっすぐ前を見据える。

そして、歌うようにその声を紡ぎ始めた。


「照らすものなき夜を越え わたしは祈る」

「ひとつの光が 誰かの明日へ届くように

「その手に灯火を その背に陽の翼を」

陽の律(ひのりつ)展開。


光が、彼女の足元に陽環を描き、同時に中空へと術式の輪が立ち上がる。

「陽環(ようかん)!」

宣言と同時に光の輪が時雨を中心に展開される。眩しすぎない淡光。対象を包み干渉から守る防壁と軽微な加速を付与する術。

これは防御ではない。

彼女にとってそれは“前に進む”ための支援だった。

僕は、一歩だけ前に踏み出す。

その光に包まれながら。

(これが、緋月さんの“言葉”なんだ)

胸がふっと熱くなる。

それは守るための光じゃない。

僕が前に進めるように隣で“照らして”くれる光だ。

まだ、僕には言葉がない。

詠唱も、術も、なにも持っていない。

けれどそれでもここにいる

それだけは今の僕にも確かにあった。

次に動いたのは久遠 澪だった。

小さく息を吸い込み、揺れるようにその言葉を、口にした。










初めて小説を書くので至らない点はあると思いますがコメントや応援いただけると励みになりますのでよろしくお願いいたします。


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