第8話:北支平定
通州大虐殺によって本土の影響を受けた日本軍は、正式な命令を待った後に進軍した。かくなる上は、国民党政府を打倒する必要があったためである。同時に、共産党政府を追捕し、彼らの首級を晒すことによって報復とする必要が存在した。
一方で、本土に於いては遂に軍部が動いたことを賞賛する声があふれた。だが、後に宇垣回顧録に語られるに曰く、「言論の自由を尊重するか新聞記者共を逮捕すべきか迷った」とされているそれは、如何に
何はともあれ、遂に大陸の日本軍は動き始めた。だが、その行動は明らかに講和を意識したものであった。彼らの行動は後に、「日本の軍部の独走」なるものが如何に敵対者のプロパガンダに過ぎないかを象徴するような律儀ある行動であった。
そして、支那共産党本部が焦り始める中、日本軍は北支を平定し内蒙古軍閥と会談した。通称、「日元講和」である。此により、一番割を食ったのは支那共産党ではなくソビエト連邦なのだが、それは気にしないことにしよう。
国際連盟に於いて、ある象徴的な演説が行われた。通称、「通州大虐殺を問う演説」である。これにより、支那国民党は進退窮まることになる。何せ、この演説によって国際世論は一気に大日本帝国への同情論に傾き、支那事変も止むなしという方向に固まったからだ。よく外交下手と称される日本だが、日本が最も不得手なのは適材適所であり、外交上手自体は存在してもそれを適所に置くことの出来ないのが問題なのである。だが、この世界に於いては(主に東京オリンピックを開きたいという滑稽に過ぎる動機は存在したものの)適材たる石井菊次郎を適所たる外務大臣に置くことに成功した。故に、この演説が開かれたのであった。
菊次郎曰く、「行動で示して理解するのは賢者であり、言論を以て靡くのは愚者である。そして残念ながら、世間は愚者の方が圧倒的に多い」。
流石に彼は某宣伝省のように「百万回も嘘を言えば真実になる」とまでは言わなかったが、言葉というものの魔力が如何に恐ろしいかを彼は知っていた。故に、彼はその魔力を逆に利用することにした。何せ今回は「通州で凄惨なる大虐殺が起きた」という事実が存在するのだ、国際世論を操作するのは彼にとって、泣いている子供を騙すよりも容易い行動であった。
そして、支那政府との講和に最も適した時期が向こうから訪れた。通称、「国共合作事件」である。
国連での演説は、大盛況に終わった。一方、進退窮まった蒋介石は密かに南京を脱出しようとしていた。だが……。
「此方歩兵第三十六連隊第四中隊長、首魁蒋介石を逮捕致しました!」
「連隊長より了解、引き続き支那共産党首魁の毛沢東を追捕せよ!」
その動きは、完全に日本軍に読まれていた。何せ、南京城を一歩出ただけで蒋介石は逮捕されたのである、その手回したるや今でも日本には忍者がいるのではないか、などといった与太話すら出たほどである。まあ確かに、陸軍中野学校に忍術の授業があるとおりこの時代にも忍者は存在したらしいが。
何はともあれ、蒋介石は逮捕された。流石に、即刻即席裁判で死刑、ということはなかったが、直近に通州大虐殺があったのである、国際裁判で有罪は確定であった。一方で、毛沢東が遁走に成功したのかと言えば……。
「ここまで逃げれば……」
「と、思っていたのか?」
「なっ……」
1937年8月19日、毛沢東を逮捕したという一報が大本営に入ったのはそろそろ日付も変わろうかという23時手前であった。
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