第2話 異世界最適化、開始します
気がつくと、森の中の見知らぬ遺跡の前に立っていた。
遺跡の周辺だけ木々が途切れていて青い空が見える。白い雲。風になびく草木。
そして目の前には、半ば崩れた石造りの遺跡。壁面に彫られた不思議な文様と、中央で光る魔力の紋章。
……うん、めっちゃ異世界してる。
「……着いたの?」
《はい、ここが新たな世界です。安全確認完了。大気、重力、魔力濃度すべて適正です》
地面に手をついて草をむしってみる。感触も、匂いも、間違いなく本物。
「異世界……なんだよな、ここ」
《間違いありません。この世界は『リュゼリア』。かつて超技術文明が滅び、魔法と遺物技術が混在する再興期にあります》
「おお……なんか思ってたよりSF寄りっていうか、神秘的だな」
この世界を選んだのは、単なる「剣と魔法」じゃ物足りなかったから。文明の遺産と魔法が共存するって設定に、ゲーマー心がくすぐられたんだよな。
《なお、この世界ではチート能力の存在は珍しくありません。慎重に立ち回ることを推奨します》
「マジか。じゃあ俺、そこまで浮かないってことか」
《いえ、あなたのスキルは突出しています。【最適進化】は成長型の中でも最高ランクに位置付けられます》
「それって……どのくらい強いの?」
《環境と状況によりますが、極端な話『剣を持った瞬間に剣術特化の体になり、毒を受けたら毒耐性を獲得し、空を見上げれば飛びたくなって羽が生える』レベルです》
「いや、それって……変なこと考えたら、その通りになっちゃう感じ?」
《いいえ。実際には『欲望』ではなく、『状況に最適な能力を自動で選定する適応機構』です。結果的に欲望のように見えるだけです》
「ふう、よかった……考えただけで『変な進化』とかしないなら、少し安心できるな。猫耳とか尻尾とか、生えたら恥ずかしいし」
《猫耳、大いに結構ではないですか。猫耳好きですよね?マスター。生やしてみては?》
「生やしたいのは俺じゃなくて、相手のほうだよ!……って何を言わせるんだ!」
《ちなみに、猫派は犬派より多く『癒やし』を感じるという統計があります》
……こいつ、本当にサポートAIか? 本気でからかいにきてる気がする。
皮肉っぽく笑って頭を振る。
気を取り直して、辺りを見回す。遺跡の向こうには苔むした森。ひんやりと湿った空気が鼻先をくすぐって、土と草の匂いがほのかに漂ってくる。
そして上空には——細い煙。
集落だな、きっと。
「あっち、集落かな。まずは人に会いたいところだ」
《同意します。初期情報の収集と衣食住の確保が優先です》
立ち上がって、自分の『あられもない』姿に改めて気づく。
まるで生まれたての存在みたい。
……いや、生まれたてだったわ。
「てか、このままじゃ歩き回れないんだけど……装備とかどうすんのこれ」
《初期補助として、汎用アーマーと基本物資を展開可能です》
「……おお、これぞチート展開。いやぁ、嫌いじゃないよ、こういうの」
目の前で青白い光が形を成していく。黒を基調とした軽装アーマーに、同色のコート。脚部の金属製ブーツに、腰のベルトには短剣。
うん、いかにも異世界装備って感じ。
「よし。異世界スタートって感じになってきた!」
《転生処理、すべて完了しました。異世界最適化の旅を始めましょう》
「最適化って言うな。なんか味気ないだろ!」
《——よろしくお願いします、マスター》
思わず笑ってしまう。
AIと一緒に異世界を旅するなんて——予想以上に、面白くなりそうじゃないか。
《つづく》
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