第3話 初対面プロトコル、実行します

遺跡があった森を抜けると、ひらけた草地が広がってた。


煙の出所を探しながら慎重に進んでいくと、小さな川沿いに石造りの小屋が見えてきた。屋根は苔だらけで、壁には蔦がからまってる。でも、窓際には布が干してあって、古いランプが灯ってた。


なんか人の暮らしの匂いがする。


「誰か住んでる……っぽいな」


《熱源と生活活動反応を検出。人型の存在が内部に存在します》


一度深呼吸してから、そろそろと扉の前まで近づく。


そのとき、中から「なんでよ……!」って苛立ち混じりの少女の声が聞こえてきた。


「な、なんだ!?」


《高周波魔力振動を検出。魔法行使の可能性があります》


思わず扉を開けると——部屋の片隅でリスみたいな小動物が血をにじませて倒れてる。それに向かって少女が必死で回復魔法っぽい光を放ってた。


その子は銀髪がかった淡い青色の髪で、年は十五、六くらいかな。でも、なんか現実離れした雰囲気がある。必死に小動物を助けようとしてる姿が、妙に神聖に見える。

服装は革と布を合わせた冒険者風。実用重視ってやつ。


「だ、大丈夫ですか?」


声をかけると、少女がビクリと振り返る。


「だ、誰!? きゃああっ!? な、なにその格好!」


あわてて、コートの裾を引っ張って下半身を隠す。実はAIからもらった汎用アーマーは、上半身だけしかカバーされてなくて、パンツもズボンもない。


「あ、いや、その……はじめまして? へへっ」


ちょっと油断したらアウトな仕様。気まずく笑うしかない。


《マスター、第一印象が完全に不審者です》


「ちょ、黙って!今マジで余裕ないから!」


少女が懐から何かを取り出そうとする。短剣? いや魔導具か?

とにかく、このままだとマズい!


「待って! 怪しい者じゃない! えーと、旅の途中で……服が消えて……迷ってて……」

「うさんくさっ!」


 やばい。これはもう言い訳の余地なし。


《スキル発動許可を。状況に応じて対話型に最適進化を行います》


「よ、よし頼んだ、シリウス!」


その瞬間、頭の中に音の波みたいな感覚が走って、身体が勝手に『安心感を与える姿勢』に切り替わる。声にも妙な説得力がこもった。


「お嬢さん、どうか落ち着いてください。私はこの地に流れ着いた者で、敵意はありません」

「……え?」


《こころなしか、顔もイケメンになっていますよ。人は見た目が9割、ですからね》


少女の手が止まって、表情がほころんでくる。


《感情安定化成功。対話の継続を推奨》


「本当に、怪しい者じゃない。旅の途中で道に迷っただけなんだ」

「……そう、ですか。ご、ごめんなさい……てっきり盗賊かと……」


少女がようやく警戒を解いて、小動物に意識を戻す。


「誤解が解けてよかった……その子、どうしたの?」

「魔物に襲われて……この森のはずれで倒れてたんです。回復魔法、うまく使えなくて……」

「見せて」


近づいて、小動物の様子を確認する。リスっぽい体に小さな傷があって、脚からうっすら血がにじんでる。でも、致命傷ってわけじゃなさそう。


「治せるかどうかは分からないけど、ちょっと試してみる」


手をかざすと、胸の奥がぽっと温かくなる。何かが反応してる——そんな感覚。意識しなくても、自然と光が手のひらに集まってくる。


やさしい光があふれ出して、リスの小さな体を包み込む。魔力が傷口に染み込むように流れ込んで、皮膚がゆっくり再生していく。


《魔法変化:回復特化》


「……治ってる」


少女が目を丸くする。


「よかった……」


ホッと息をつく。


異世界適応、意外と順調かもしれない。パンツは必要だけど。


《つづく》

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