ー1章ー 23話 「再び灯る酒場の光――ユイナと“シュワット”復活!」

【リュウジ】「……そういや、麦って結構順調に育ってたよな。ユイナさん、何してるんだろ」


ふと、頭に浮かんだその名前。

そう、それは以前トリア村に初めてぬちゃぬちゃを撒いた頃に出会った酒場の娘さん。

いつもなら明るく声をかけてくれるのに、最近見かけていなかった。


 ……気になる。


そんな気まぐれに導かれ、俺はかつて酒場だった建物へと足を向けた。


窓からは、うっすらと明かりが漏れていた。

トン、トン……と控えめに扉を叩く。


【リュウジ】「……ユイナさん?」


【ユイナ】「あっ! リュウジさん!? ごめんなさい、全然気づかなくて……」


中では、ユイナが大きな酒樽とにらめっこしていた。


【リュウジ】「なにしてるんだ? まさか、喧嘩中とか……」


【ユイナ】「違う違う! 実はね………って話すより……。ちょっと飲んでみて欲しいものがあるの!」


そう言って、彼女は手近な木のジョッキを手に取ると、慎重な手つきで酒樽の中身を注ぎ始めた。


トポポポ……ふわっと香る麦の香り。

そして注がれた黄金色の液体は、泡を立てていた。


【リュウジ】「……これって、まさか」


【ユイナ】「うん、父のレシピを見ながら、何とか作ってみたの。“シュワット”よ!何とかできたんだけど、上手くできたか分からなくて……。

だから、リュウジさんに試飲してもらいたいの!お願い!!」


【リュウジ】「おお!!最近見かけないと思ったら、これを作ってたんだぁ!スゴいよ!ユイナさん!喜んで飲ませてもらうよ!」


【ユイナ】「ありがとう!もし美味しくなかったら、遠慮なく言ってね」


このシュワットの善し悪しで、お店をもう一度開けるかがかかっている。

ユイナさんの言う通り、ここは忖度なしで試飲させてもらう事にした。


ゴクリ。


俺は一口、口に含む。


――うまい!!


喉に流れ込む心地よい刺激と、口の中に残る程よい苦み。

麦の風味が鼻を抜け、思わず目を見開いた。


【リュウジ】「……ぷっはあああああああ!! 生き返るぅぅぅぅ!!これこれ!美味いよ!」


【ユイナ】「ほんとっ!? やったあああ!!」


喜びのあまり、俺とユイナさんは思わず抱き合って──


 パァン!!


【リュウジ】「いったぁ!? な、なにすんのさユイナさん!」


【ユイナ】「ご、ごめんなさいっ! いきなりだったから、つい……驚いちゃって……!」


顔を真っ赤にして目をそらすユイナ。

頬を押さえて涙目の俺。


だが、その顔には確かな笑顔が浮かんでいた。


【ユイナ】「でも、これで……もう大丈夫。酒場、再開できる!」


 そう言ったユイナの声には、父から受け継いだ想いと、自分自身の夢への覚悟がこもっていた。


【リュウジ】「よし、それじゃあ“お祝い”しないとな!明日から働いた分だけ飲んでも……いいよな?」


【ユイナ】「ふふっ……飲みすぎはダメだからね?」


こうして、酒場には再び灯がともる。

麦と泡と、笑い声が夜の村を優しく包み込んでいた。


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