【最終話】お兄ちゃんだけの主演女優(ヒロイン)になりたい!!~枕投げ、布団をかぶって添い寝~

 場面転換 波音の部屋兼寝室 夜


 //SE 優しい風鈴の音に波の音が重なる


「……お兄ちゃん、もう眠っちゃった?」//離れた場所から声


「ぶつけた頭が痛くて眠れないの?」//心配そうに


 「ええっ、君の献身的な膝枕と、甘い吐息のふ〜ふ〜で怪我はもう治った!? もうっ、調子が良すぎるんだからぁ!!」


「う~ん、 何かこらしめてやる方法はないのかな?」


「そうだ、これよ!!」


 //SE 布団の衣擦れの音 柔らかな物体が顔にぶつかる音


「よーし、ひさしぶりに枕投げをしちゃうよ!! お兄ちゃんにはこれまで負けたことがないし、今回もこてんぱんにしてあげる」


 //SE また枕が顔をめがけて飛んでくる 命中してバフッっと大きな音を立てる


「圧倒的に私が有利ね。お兄ちゃんの寝ていたソファーにはクッションしかないから。火力が違いすぎてごめんね!!」


 //SE こちらも手元にあるクッションを掴み、応戦する 布の固まりが飛んでいく音。


「あっ、反撃してきたな!! お兄ちゃんのくせに生意気じゃない……」


「うりゃ!! 枕の次はぬいぐるみの熊さんだ」


「いけない!!」//息を漏らす、大切なことに気がついた様子


「これは投げちゃダメなんだ。お兄ちゃんから貰った私の宝物」


「ふうっ……」//想いをこめて吐息を吐く。


「私のかわりに、秘密基地でお留守番をしてもらってたんだよね」


「うん、とても大切にしてたの。自宅に持っていきたかったけど、移動中に失くしたりしたら、ふたりの絆が切れちゃう気がしたから」


 //SE ぬいぐるみを抱きしめる音。風鈴の音 波の音


「……」


「……」


「お兄ちゃん、私のベッドまで来てくれる……」//決意した口調で。


 //SE ベッドの軋む音。衣擦れが重なる


「またお願いがあるの」


「……あの頃みたいにあなたの手のひらで、私の頭を撫でてほしい」//消え入りそうな声で


 //SE ベッドの軋み音と衣擦れの音(隣に寄り添う)


「来てくれて良かった。お兄ちゃんからたしなめられるかと心配しちゃった」//安堵した様子


 //SE 耳もとに吐息。くすぐったいくらいの距離感


「お兄ちゃん、お布団にくるまってお話しようか? 子供の頃もこの部屋でやったよね。とても楽しかった想い出なんだよ。……私の大切な宝物のひとつ」


 //SE 布団を頭からかぶる音。波音の心音がこちらに聞こえる密着度


「ほら、また胸がドキドキしてる。聞こえちゃうよね」//耳もとでささやく


「物置ではムキになってごめんなさい。あなたのことが好きすぎて、つい意地悪しちゃうの」


「……こんな性格の悪い女の子をお兄ちゃんは嫌いだよね」


「……」//不安げに言葉を待つ。


「本当に? そんな不器用な私もひっくるめて好きだからって……」


 //SE 高まる心音 競うように波の音も高まる


「嬉しい……」//嬉しさを噛みしめる


「私ね、演じることでしか自分を表現できなかったの。人見知りな性格だった幼い頃に、両親からの勧めで児童劇団に入ってから、大人に褒められることしか考えていなかった」


「国民的ドラマの主役を勝ち取って、世間から天才子役とかもてはやされても、どこか、からっぽな私がいたの……」


「役柄の私を見ているだけで、本当の自分を誰も見てくれない。贅沢な悩みなのはわかっていたけど、当時は精神的に追い詰められ、普通の女の子に戻りたかったんだ」


 //SE こちらの頬をなでる指先 甘い吐息が耳に心地いい


「逃げるようにたどり着いた避暑地の海岸で、ある男の子と運命的な出会いをしたの」


「よく日に焼けた笑顔。はにかむように笑う癖。彼の澄んだ瞳に映っていたのは、芸能人じゃない本当の私の姿だったから!!」


 //SE 風鈴の音と波の音が告白に合わせてフェードアウト


「……ふぅ」


「ここからは憑依型の演技じゃない。私の本当の台詞せりふをいうね」


「お兄ちゃん、いまの想いを全部込めるから、聞いてくれますか……」


「ふうっ、はぁ……」//深呼吸


「私をあなただけの主演女優ヒロインにしてください!!」//決意の中にも可憐な感じ


 //SE 風鈴と波の音がフェードイン 波音の心音も同時に


「……」//こちらの返事を不安げに待つ


「相手役が僕なんかでいいの? 棒演技しか出来ないよ。って言ってくれた!! じゃあOKってことだよね」


「……嬉しい」//感極まってしまう


「その言葉だけで大丈夫だから」


「うふふっ、これからの演技指導はとっても厳しいかもよ。私の中に棲むヒロインたちが鬼講師になるから」//泣き笑いの声


「な、泣いてなんかいないから。これは元天才子役の特技なの。嘘の目薬なんか必要ない。数秒で泣ける最速子役の称号はいまだに返上していないわ」


「……」

(お互いを見つめ合う)


「……なんて嘘だよ。涙もろいのは昔と変わらない」


「ねえ、お兄ちゃん、私、やっと見つけたよ。本当のタイムカプセルのある本当の場所!!」


「物置で宝箱がわりのブリキ缶から、僕たちのタイムカプセルは見つけたじゃないかって? ……あのカプセルに入っていた私の手紙は、読まなくても内容はわかるからもういいの」


「えっ、手紙の内容を僕にも教えろてすって? ふーん、そんなデリカシーのないことをお兄ちゃんは聞いちゃうんだ」


「仕方がないなぁ、特別に手紙の内容を教えてあげるね」


「……」

(月明かりの差しこむベッドの上で、お互いを見つめ合う)


『未来の私へ。将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さんになることです。大人の波音はのんへ……。絶対幸せになってね。小学生の私からのお願い♡』


「……」


「私の告白とほぼ同じだったね……」


「私にとっては、この秘密基地は特別なの」


「今みたいにお兄ちゃんといっしょにくるまるお布団。それこそが何より安らげる場所だってようやく気がついたんだ」


 //SE 布団に包まる衣擦れの音 波音がこちらの胸に飛び込んでくる。

(お互いを強く抱きしめ合う)


「えへへ、やっと自分の言葉で、真っすぐに向き合うことが出来た」

//SE こちらの髪を優しくなでる音


「私ね、お兄ちゃんと出逢えて本当に良かった……」//満ち足りた声で


「……ねぇ」//彼女の吐息


「初めてのキスはお兄ちゃんからして欲しいの……」


「……んっ、ふぅ」


 //SE 口づけを交わすリップ音 静かな波の音が重なる


「……」//余韻の空白


「大好きだよ、お兄ちゃん。末永く私と人生の共演をよろしくね♡」


//SE 涼やかな風鈴の音 波の音 次第にフェードアウト




 【完結】


 

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あなただけのヒロインになりたい ~初恋の黒髪清楚な美少女の正体は憑依型の元天才子役だった~【ASMR】 kazuchi @kazuchi

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