第7話 地域との交流と意外な評判 -1
数日後、アレンが村の長老を伴い、健一の小屋を訪れた。
長老は、年季の入った杖を手に、深々と頭を下げた。
その表情には、困惑と期待が入り混じっていた。
長老の顔には、村の抱える問題の重みが刻まれているようであった。
「健一殿、依頼がございます! この老人が、貴殿の腕前を見込んでな!」
アレンは長老を指し示した。
彼の声には、健一への確かな信頼が滲み出ていた。
アレンは、健一の技術が村の助けになることを確信していた。
「うむ。アレンから貴殿の腕前を伺った。どうか、この破損した鋤(すき)を修繕してはくれまいか? 大切な農具でな…」
長老の切実な依頼に、健一は躊躇なく破損した鋤を手に取った。
木製の柄は折れ、先端の石刃も欠けている。
長年の使用による摩耗と、不適切な力が加わった痕跡がはっきりと見て取れた。
この鋤が、村の生活にとってどれほど重要なものであるか、健一にはすぐに理解できた。
前世の総務部で培った「施設・備品の修繕や管理」の経験と、日曜大工の知識、そして何よりも「構造を理解し、問題を特定する」彼の真面目さが遺憾なく発揮された。
「なるほど。力が一点に集中しすぎているな」
健一は独白した。
「補強と、角度の調整が必要だ。総務部で破損した椅子や机を修繕していた経験が、このような場所で役立つとは…」
健一は、あたかも複雑なパズルを解くかのように、冷静に問題を分析した。
彼の脳裏には、破損した備品を前にして試行錯誤を繰り返した日々が蘇る。
その経験が、異世界でまさか人助けに繋がるとは、想像だにしなかった。
彼の顔には、問題解決への集中と、わずかな喜びが浮かんでいた。
健一は、創造魔力を用いて、周囲の木材を加工して新しい柄を製作し、石刃の欠けた部分には、別の石を魔力で整形し、ぴったりと嵌め込んだ。
手のひらから放たれる淡い光が、木材を滑らかにし、石を意図通りの形に変えていく。
その光景は、まるで魔法のようであった。
木材は彼の指先でしなやかに曲がり、石は熱を帯びて柔らかくなり、望む形へと変化していく。
繋ぎ目には、樹液を混ぜた粘土状のもので補強する。
集中して作業する健一の顔には、かつての疲弊は微塵もなかった。
むしろ、何かを生み出す喜びと、目の前の問題解決に没頭する充実感が満ち溢れていた。
彼の額には、集中による汗が滲んでいたが、その表情は生き生きとしていた。
「これでどうだろうか? 以前よりも頑丈になったはずだ」
健一が完成した鋤を差し出すと、長老とアレンは目を丸くした。
彼らの顔には、驚きと感嘆の表情が浮かんでいた。
「おお、これは…新品よりも優れているかもしれん!」
長老は感嘆の声を上げた。
その声には、信じられないという感情と、深い喜びが混じっていた。
長老は鋤を手に取り、その強度と精巧さに感心した。
「まさか、これほど早く修繕されるとは…健一殿、感謝する!」
長老は深々と頭を下げ、その目に涙を浮かべていた。
彼の言葉には、心からの感謝が込められていた。
「素晴らしい! やはり貴殿はただ者ではないな!」
アレンも興奮を隠せない。
その目は、健一への尊敬の念で輝いていた。
彼は、健一の持つ力が、村にどれほどの恩恵をもたらすかを感じ取っていた。
長老は、謝礼として村の特産品(干し肉、珍しい果実、木の実など)を健一に渡した。
健一は、素直に感謝されることに多少戸惑いつつも、温かい気持ちになった。
「前世においては、どれほど完璧な職務を遂行しても、感謝されることなど滅多になかった」
健一は心の中で呟いた。
「それが当然であったからか…。これほどまでに率直に感謝されると、照れるな」
彼の心は、純粋な感謝によって満たされていく。
それは、評価や報酬とは異なる、魂を揺さぶるような喜びであった。
彼の存在が、この世界で確かに必要とされているという実感が、彼の心を深く満たした。
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