第8話 地域との交流と意外な評判 -2
長老は健一に、村に滞在していくよう誘った。
「健一殿、もしよろしければ、我らの村へお越しになりませんか? 感謝の気持ちを込めて、ささやかな宴を催したいのですが」。
長老の誘いは、健一にとって予想外であった。
彼はこれまで、誰かのコミュニティに深く関わることを避けてきたからだ。
健一は多少戸惑ったが、リルルに促され、アレンと共に村へ向かった。
「健一様、村の皆はとても温かい方々です。きっと、あなた様を歓迎してくれますよ」
リルルは健一の肩に寄り添うように言った。
彼女の言葉に、健一は少しだけ安心した。
森の小道を抜けると、視界が開け、素朴で小さな村が姿を現した。
土壁の家々が寄り添うように建ち、煙突からは白い煙が立ち上っている。
村全体が、温かい生活の息吹に満ちていた。
子供たちが広場で無邪気に駆け回り、大人たちは談笑しながら作業をしている。
人々は皆、健一を見て物珍しそうにするが、すぐに笑顔で迎え入れた。
子供たちが健一の周囲に集まり、興味津々で話しかけてくる。
「おじいちゃん、リルルのお友達?」
子供の一人が尋ねた。
その無邪気な問いかけに、健一の頬が緩む。
「おじいちゃん、か…。(苦笑)まあ、そうだな」
健一は優しく答えた。
その言葉には、どこか懐かしさと、温かい感情が混じっていた。
彼は、子供たちの純粋な好奇心に触れることで、自身の心が解き放たれていくのを感じていた。
村の生活は原始的で、非効率な部分も多かった。
水汲みや薪割り、畑仕事。
しかし、人々は助け合い、ゆったりとした時間を過ごしている。
健一は、前世の「効率至上主義」の視点から、この世界の「非効率」に当初は違和感を覚えた。
「彼らのやり方ならば、もっと効率よくできるのに…」
健一は思考した。
彼の頭の中では、前世の知識が効率的な解決策を次々と提示する。
「いや、しかし、彼らはこれで幸福なのであろう。無理に私の『正しさ』を押し付けるべきではない」。
健一の心の中に、新たな価値観が芽生えていく。
効率性だけが全てではない。
心の豊かさもまた、重要なのだと。
村人たちの笑顔は、何よりも雄弁にその事実を語っていた。
彼らは、完璧ではないが、互いに支え合い、満ち足りた生活を送っている。
その姿は、健一にとって新鮮な驚きであった。
村で初めて見る珍しい野菜や果実に出会う。
鮮やかな色の実、独特の香りを放つ葉。
村の女性から、それらの調理法を教わる。
健一は、その独特の香りに驚きつつも、興味を覚えた。
「健一さん、これはね、『ふわふわの実』というんだ。焼くと甘くて美味しいよ」。
村の女性は親切に教えた。
「ほう。これは…(前世には存在しない味だな)」
健一は、異世界の食材を味わった。
その一つ一つが、彼にとって新たな発見であり、喜びであった。
夕食の席では、村人たちが持ち寄った様々な料理が並び、健一は生まれて初めて味わう異世界の味に舌鼓を打った。
村人たちは、健一の珍しさに興味を持ち、彼に様々な質問を投げかけた。
健一もまた、彼らの素朴な疑問に、前世の知識を交えながら答えた。
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