第12話 思い違い
「な、なぜ、立っている?!」
ユリウスが絶望した顔で吠える。
「だから、なんです?あなたの最終手段である攻撃を見事受けきった、以外に何かあるのでしょうか?」
「くっ、そんな馬鹿な話が…俺が5歳の相手に、格下に負けるだと、、、そんなこと許されるわけがぁぁぁ!」
プライドが許さないのかユリウスは青ざめた顔で喚き散らしている。
ジークフリートに関しては流石としか言いようがないだろう。
「なんだと、まさか生命波動?5歳のお前が?俺でさえ、10歳を越えてから覚醒したというのに……。クフフフフフフ」
もう俺が放っているオーラについて気が付いていた。さらに不気味に笑っている。高揚しているのだろうか。こいつの性格上、弱者には全くと言っていいほど興味を示さないが、強者にはとてつもなく強い興味を持つ。自分を殺せるほどの
その上、彼の言っていることもまた事実。今ルークが行っていることは異常という他なかった。
本来、生命波動を知覚するだけでも大半は15を超えると言われている。もちろん選ばれし者の中で、だ。彼、ジークフリートも10歳を超えてから覚醒した。これでも規格外。
そして、歴代最速と言われる8歳で覚醒した者がいた。それがゼフィルス家初代当主 ルーンベルク・フォン・ゼフィルス。まさに、最強。ゼフィルス家の歴史をおよそ1000年遡ってもこの世にこの男を倒せる者などいないと言われるほどに。
だからこそのジークフリートの高揚。
「ええ、お見事ですよ、父上。俺は確かに生命波動を扱えます。」
周りにいる観客の奴らはそのことを信じきれていないらしい。だが、たとえ誰が認めなくても当主が認めれば、黒も白となるのは周知の事実。
「…どこでその存在を知った?」
「この存在に気づいたのはごく最近ですよ。ですが、どこでこの存在を知ったかに関する父上の問いには"秘密"とさせて頂きましょう。何でもむやみに他人に教えるわけにはいきませんからね」
そんな簡単に手の内を晒してたまるかよ。
てか、さっきのユリウスの技、中々に強烈だったな。何とか直撃は避けたが頭は割れてしまった……だが、こんな所で倒れるわけにはいかない。
「さあ、ユリウス兄さん。終わりにしましょう」
「ハッ、生命波動が使えたところで制御出来なければ意味ねえだろうが。終わるのはてめえだ!」
ダメージ量は両者変わらない、故に次、一撃を与えた方が勝者となる、つまり、戦局は
それが単なる思い違いだとも気付かずに…
「ん?制御出来ない?何を言っているのですか、兄さん。扱えないのにわざわざ見せびらかすような真似をするわけないでしょう」
「……………は?」
そうユリウスが素っ頓狂な声を出したと同時に俺は生命波動を辺りに広げ始める。
俺は生命波動を纏った手を前に出して握りしめ、自身の能力について話し始める。
「俺の波紋は、この生命波動を纏い、触れた物を壊すことが出来るという能力なんです。カッコよく言うなら─『破壊』─とでも名付けましょうか 」
原作でもルークの波紋の能力は『破壊』だった。
「さあ、行きますよ。ユリウス兄さん」
「…ッ殺す」
俺は木刀に生命波動を纏わせてユリウスと同時にスタートを切る。
両者の木刀がぶつかりあった瞬間、片方の木刀が粉々に砕けた。もちろん、砕けたのはユリウスの木刀だった。
「まだ、やるか?」
「なっ……」
木刀を文字通り粉々にされたユリウスは、尻もちをつき、肩をわなわなと震えさせて俯いていた。そんなユリウスを俺は見下ろす。
もう、勝敗は決した。敗者に敬語を使う道理もない。
「ククク、無様だな、ユリウス。地面に這いつくばって、まさに弱者に相応しい末路だ」
「くっそ」
俺はユリウスに木刀の剣先を向けながら、ジークフリートが決闘の判定を下すのを待っていると、ふと、ある考えが浮かぶ。
──今ここでこいつを殺しておいた方が後々楽だな──と。
後々、障害になる可能性がある者は早いうちに排除しておく方が楽なのだ。
その考えに至った俺は即座に行動に移す。
即死させても面白みがないので、俺は波紋を使わずに木刀でユリウスの腹を殴る。
「がはっ」
今の一撃で骨の何本かは折れたみたいだな。
次はどこを殴ろうかと考えながら、地に伏しているユリウスの前で木刀を振りかぶると、後ろから誰かに止められた。
俺がピクっと動きを止め、後ろを振り返ると、執事服を来た年老いた人物が立っていた。俺はこの人物を知っている。
名前は、ガラハッド・オルドレン。今は前線を退いたが、全盛期の時代、帝国騎士団副団長を務めていた人物だ。当時、この男は『阿修羅』とまで呼ばれる程、戦場で猛威を振るっており、かなり名を馳せていた。どういう経緯かは知らないが、前線を退いた後、ゼフィルス家の執事長として働いている。
だが今の俺にそんなことは関係ない。俺は躊躇せず殺気を出し、ガラハッドを睨みつける。
「何のつもりだ?」
「決闘で死者を出されるのは困ります。ルーク様」
「あ?それはなぜだ。決闘前に父上が、-殺しても構わない-と仰っていたと思うのだが?」
「で、ですが…」
「お前ごときが俺に命令出来ると思うなよ。分を弁えろ」
俺は次は無いぞとばかりにプレッシャーを彼に与える。これ以上何も言うことは無いと思い、俺は前を向き、先程の続きをしようとするが、そこで横から口を挟んでくる者がいた。
「許してやれ、ルーク」
「……はい、父上」
父上に止められては俺もこれ以上事を進めるわけにはいかない。ここは潔く引き下がるが、是だ。
「父上に感謝するんだな、ユリウス」
「あ、ぁ、は、はぃぃぃぃ」
少し、ビビらせてやるとこいつ、失禁しやがった。サルバンに続いてなんでこんなにこいつらは失禁したがるんだよ、クソが。
臭い匂いを我慢しつつ、もうここには用はないので、俺は修練場を出ようとすると、
「ルーク、期待しているぞ」
ルークは珍しく唖然とした。まさか、あのジークフリートから他人を褒める言葉が出てくるとは思っていなかったからだ。驚き、言葉を失いつつ、少し間を空けて、なんとか「ええ」とだけ声を絞り出して修練場を出た。
修練場を出る直前、ルークは使用人たちの話している内容を微かに聞いた。その中の一つの単語にルークの意識は完全に向いた。
━━『ゼフィルス家の神童』━━という言葉に。
ゼフィルス家の落ちこぼれから神童へと評価が180°反転した瞬間だった。評価が上がるにつれて俺の自由度は増す。10年後の学院入学までにどうなっているのか俺は楽しみで仕方がなかった。
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