第11話 ムカつく兄

「お、来たか落ちこぼれ」


 俺が修練場に入ると、雑音が耳に響いてきた。


「……」

「おい!無視してんじゃねえよ」


 俺はただの雑音だと思っていたが、どうやら俺に話しかけていたらしい。


「ん?ああ、私に、でしたか。これはこれは兄さんに対して申し訳ない」

「な、なんだと?」


 わざとらしく俺が煽り口調でユリウスに言葉を返してやると、ユリウスは今にもキレ出しそうな顔をする。


「俺に勝てると思ってんのか?」

「…勝てると思ってんのか、ですか」

「?」


 俺のオウム返しにユリウスは首を傾げる。


「勝てると思ってるに決まっているじゃないですか。貴方ごときに負けている暇は、僕にはありませんからね」


 俺は邪悪な笑みをユリウスに向けて大胆な勝利宣言をする。流石にこの俺の言葉にはこの場にいる、おそらく気まぐれで来ている兄さんや、使用人たちが震えるのがわかった。

 まあ、おそらく俺の頭を心配している奴らが大半だと思うが。


「今まで散々と可愛がってやってきたのに言うようになったじゃないか、クソ陰気野郎の落ちこぼれがよ!」

「…」


 俺からはもう何も言う事はない。言うことは言ったし、ここから俺が何かを言う必要も無い。ただ労力の無駄使いとなるだけだ。

 この会話は事実何も産まない。それに、もう打ち切られるだろうからな。


「貴様たち、決闘の時間だ。早く持ち場の所へいけ」

「「はい」」


 当主が自ら持ち場の所へと二人を促す。


「ケッ、覚悟しとくんだな、落ちこぼれ」

「ええ、楽しみにしておきましょう……ユリウス兄さん」


 会話を止め、動き出す。


「ルーク様大丈夫かよ」

「それなー。剣の訓練してるとこも見たことなかったしな。流石に勝てるわけないだろ」

「だよな。殺されないように祈っとくしかないよな」


 耳を澄ますと、使用人の奴らからこのような声が聞こえる。まあ、当たり前の反応だが、気分が良いものではないな。


 そのようなことを考えながら、決闘用の木刀を手に取り、ユリウスと相反するように立つ。


「二人共、準備は良いな」

「「はい」」


「勝利条件は単純明快。相手が戦闘不能になった場合のみだ。基本何をしても許す。最悪殺しても構わん。相手にへばりつき降伏するようなことは許さぬ。

 ゼフィルス公爵家に恥じぬ闘いを期待する」


「決闘を始めよ!」


 当主から決闘の火蓋が切られた。


 それにしても、決闘で殺してもいいってさすがはゼフィルス家って感じだよな。


「ハンデをやるよ。先手はお前からこいや」


 ユリウスが煽り声で言ってくる。あからさまな挑発だが、面白い。俺は口角が上がるのを感じた。


「では、お言葉に甘えて」


 まずは、様子見…俺は控えめに自分に身体強化を施し、ユリウスに直進する。


「?!」


 ユリウスは見るからに驚く。

 そんなに驚くことか?まだ3割程度だぞ?


「どうしました?兄さん。どうも顔色が悪いようですが」

「ハッ、思ったよりはやるみてえだな」


 互いに木刀をぶつけ合うが、ユリウスの顔にはもう焦りが見える。


 10回程木刀をぶつけあった二人は一度距離を空ける。そして、ユリウスが前に重心を向けたと思った瞬間…


「死ねぇぇぇ」

「…ほう」


 速度が格段に上がった。


 なるほど、流石に強いか。俺はユリウスの速さに即座に順応できず、防戦一方になってしまう。


 段々と、俺の身体に傷跡が目立つようになってくる。今俺らが持っている得物が真剣だった場合、血飛沫を舞っていたのは俺の方だったな。


 このままだとジリ貧だと思い、俺は一度距離を取り、呼吸を整える。


「おいおい、どうした落ちこぼれ?もう終わりか?」


 ユリウスからこう言われるが、何を勘違いしているのか。俺は勝ち誇った顔でこう言ってやる。


「何を言っているのですか、兄さん?強き者こそ、初めは様子を見るものなのですよ。要するに……」

「あ?」


 そして、俺は完全に見下した目で…




『あなたの底はもう見えた』





 現実を叩きつけてやる。



 俺はそう言うと、ユリウスに向かって走り出す。目で追えないくらいの速さで。


「なっ?!」

「どうしました?防戦一方のようですけど」

「な、舐めるなぁぁぁぁ」


 四方八方からの斬撃で完全に追い詰めていく。

 気合いでどうにかしようとしているが、そんなもの何の脅威にもならない。

 俺は少し力を入れ、ユリウスを吹っ飛ばしてやる。すると、壁にめり込んだ。


「ぐ、ぐあああ。……ゲホッ」


 ふーん。どうやら血を吐いたらしいな。まだ、身体が未熟なのか?この程度の力でよくそこまで自分の身体を傷つけれるものだ。と、顎に手を添えて考えながら、ユリウスに近づく。


 まだジークフリートが決闘を止めないということはユリウスを戦闘不能とみなしていないということなのだろう。つくづく毒親だなぁ。


 ふむ、これからどうするか。まずは手足を折ってみるか。


「……十分じゅうぶん、近づいたな?落ちこぼれ、ゴフッ」


 俺は目を見開く。


「死ねぇ、アイスブラスト」


 ユリウスが最後の咆哮とばかりに叫ぶ。


 そして、ルークの頭上、前後に一面の氷の矢が大量に、無慈悲に降り注ぐ。



「ハハハハハハハハハ、やはり、貴様には経験値が足りなかったようだな落ちこぼれ。中々やるようだったが俺には届かなかったみたいだ!」


「ここまでか」


 ユリウスは完全に勝利を確信し、ジークフリートは決闘の終了を告げようとしていた。勝者は決した、と。


 卑怯な真似ではあるが、決闘という名の戦争である故、ルークの油断を生み出したユリウスの勝ちである。

 もちろん、ジークフリートもルークの5歳とは思えぬ戦闘センス、身体能力には驚いたものの、最後にはユリウスの視野がまさったのも事実。惜しくも、ルークはユリウスに敗北した。







 だが、そんな考えも、たった今氷の矢が降り注いだことにより発生した霧の中から、発せられる俺の言葉で180°変わることになる。


「ククク、クハハハハハハハハ。実に見事だったぞ、ユリウス。生命波動がなければ危なかった。昨夜、頑張った甲斐があったというものよ。まさに油断大敵…まさかここで、この前の失敗を活かすことが出来るとはな…ゴフッ」




 やがて、霧が晴れ、そこにあったのは黒のオーラを纏い、頭から血を流し、口から血を吐き出すも不敵な笑みを浮かべていたルークの姿であった。







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