第13話 待ち望んだ才能 *sideジークフリート

 俺は今、自身の胸の高まりを抑えられないでいた。このエーテリオン帝国で長年最強の座に君臨しているこの俺が、我ながら情けない話である。だが、今目の前で我が末息子がやってのけている所業を見てどう胸が高鳴るのを抑えられよう。


 我が末息子──ルーク・フォン・ゼフィルスは俺の前で圧倒的な才能を示した。

 ゼフィルス家で、可もなく不可もなくといった並の才能を有するユリウスに対して互角の剣技を見せたかと思えば、突如形勢が傾いた。ルークの速さが格段に上がったのだ。確かにユリウスも剣速が上がってはいたが、ルークはそれを上回っていた。


 ククク、一体自分の身体に何をしたのやら……


 しかし、ルークの才能は俺の考えの遥か上を突き進んでいた。


 壁に突き飛ばしたユリウスを見て、ルークは決着は着いたと油断していたのだろう。少なくとも俺には油断しているように見えた。その隙をユリウスは見逃さなたかったのだ。明らかに油断しているルークに大量の氷の矢を打ち込んだ。明らかに致命傷。当たり所が悪ければ、

 ─死─さえ見えるような攻撃をもろに食らった。


 この光景を見て俺はここまでか、と思った。明らかにルークはゼフィルス家で上位の実力を持っているのは確か、だが、ルークには実戦経験が乏しかった。技術ではルークの方が上だったが、視野の広さではユリウスがまさっただけの話。


 俺は少し残念な思いで勝敗を告げようとしていた。だが、その瞬間聞こえてきた声によって、俺は過去類の見ないほどの高揚が俺の胸に沸き起こった。





❖❖❖



『ククク、クハハハハハハハハ。実に見事だったぞ、ユリウス。生命波動がなければ、危なかったぞ。昨夜、頑張った甲斐があったというものよ。まさに油断大敵…まさか、ここでこの前の失敗を活かすことが出来るとはな…ゴフッ』


 

❖❖❖




 く、くはは。あの攻撃を受けてまだ立っているだと。その上、あいつの身に纏っているオーラはなん…だ…………ぁ。


 俺はそのオーラの正体に気づいた。


 まさか…5歳で、だと?そんなことがありうるのか。そんな…ことが。俺でさえ10歳を超えてからだぞ。あの初代当主をさえも凌ぐ才覚。


 くくく、くはははは。天は我に味方したぁぁ!

 はははは、胸が…熱い。この感覚は久方ぶりだ。まだ俺は年老いていなかったということか。これほどまでの高揚を感じることができるとは…。最高だな。


 いつ以来だろうか。この俺がここまで感情的になるのは…。まだまだ未熟ということなのだろうな。



 そして、こやつは身に纏うオーラ─生命波動を制御し始めた。正真正銘の"波紋"を御している。もはや笑うしかあるまい。


 俺を殺せるほどの逸材を求め、数十年。計7人もの子を産んだが、あいつ以外の期待を持てる奴を産むことは出来なかった。



 ゼフィルス家の戦闘鬼。ゼフィルス家の長女であり、感情なき暴姫あばれひめ。美しい見た目とは裏腹に感情もなく相手を殺戮する彼女の才能は、ゼフィルス家当主 ジークフリートにも迫る。その圧倒的な力を前に世間ではこう言われている。


 ━ゼフィルスの暴姫が来たらおしまいだ━


 と。



 ジークフリートが唯一認めている存在。彼女に比べれば、他の有象無象はゴミも同然。しかし、最後の最後、天から与えられたとしか思えぬ才能を持って生まれた我が末息子。自分が全力を出すことができ、届かない可能性のある逸材。心が踊る。



 終わったみたいだな。俺が未来に思いを馳せていた時、ルークたちの決闘も終わったらしい。


 おっと、ユリウスを殺すつもりか?

 ルークが少し間を開けてから動き出したことを鑑みるにここでユリウスを殺した方がいいと思ったのか?なぜだ。俺が始めに『殺しても構わない』と言ったからか?いや、あの歳で野心を持っているのか?

 フッ、まさかな。それは期待しすぎか。


 急いで、我が家で働く執事長が止めに入る。


 ほう、相手が元王国騎士団副団長だと言うことはルークも知っいるはず。それを知っていて尚、態度を崩さない、か。いい度胸をしている。


 だが、


「許してやれ、ルーク」


 殺しても構わないが、ここで殺す必要もあるまい。まだいくらでも使いようがある。半人前をぶつけるより、成長しきってから一人前をルークにぶつけた方が余程、ルークの糧となるだろう。


 ルークは俺の言葉をすんなりと受け止め、もう用はないと言わんばかりに修練場を後にしようとする。


 あいつがこれからどう行動し、何を成すのか俺も楽しみになってきた。そう思いながら、ルークの後ろ姿を見ていると、


「期待しているぞ、ルーク」


 気づくと、そう口にしていた。ルークも俺からそのような言葉をかけてくるとは思わなかっただろう。驚いているようだ。それも当然だろう。俺がそのようなことを口にするなんて想像もつかないはずで、俺自身もなぜそんな言葉を口にしたのか分からない。


 しかし、良い方向に向かっているのは確かだ。ルークの力があれば、俺の"計画"もかなり楽になる。そして、何よりゼフィルス公爵家はあと、数十年は安泰だ。


 ルークは「ええ」とだけ言い残し、今度こそこの場を後にした。


 ルークの後ろ姿を眺め、ジークフリートは密かに思った。



 ───初代当主の再来、否、それ以上か



















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