第28話
「無事、焼き窯に火が入ったのですね。お疲れ様です。」と、みんなに両手で握手をした。
「皆さん交代で休んで下さいね。そうしないと倒れてしまいます。それと、お食事はどうされましたか?」
「あまりの忙しさ? に食べるのを忘れて居たよ。」
「では皆さん、此方をお召し上がりください。」とバスケットに入った食事を渡して行った。
「先程迄、あんなに疲れていたのに、不思議だ、今夜はまだまだ頑張れそうだ。」
「所でグレンさん、あの動物達は何なのですか?」
「動物達が何か、ご迷惑をかけましたか?」
「僕達が、最初に一回教えた事をきちんと守っているんです。」
「儂らが、どれだけ助かったか分らん。グレン見てくれ、其処に積んであるレンガは、みんなあの動物達が作ったんだ。お陰で、俺達は焼き窯作りに専念出来たし、 イヤ、焼き窯も殆んど鼠やモグラが作っていたし、薪集め何て、ゴリラ達が全て遣ってくれたんだぞ。なあ…‼」
「そうですね、工房でもこんなに早く仕事が進んだ事が、無かったですよ。」
「そうだな、本来ならこの焼きに入る迄に一か月以上は掛かると思う。」
「そうですね。それに、工房では焼き窯十本同時に使うなんて経験在りません、親方は経験在りますか?」
「そんなのある訳ないだろう。在ったら、工房にも作ってるよ。」
「そうですよね~~! 工房で引き受けた仕事は、いつもレンガの焼き上げがギリギリですもんね。」
「そうだなぁ、この仕事が終わったら、焼き窯増やそうか?」
「いいですね~~。」
こんな風に話していると、親方が急に、まじめな顔で、
「あいつ等、明日も来てくれるだろうか?」
「来てくれますよ、めっちゃ!楽しそうに土こねて居ましたからね。」
「そうだな。それじゃぁ、オレを含めた此方の五人で、焼き窯を見ているから、お前達五人は荷馬車の中で休んでくれ。その後、俺達と交代だ。」
「はい。それじゃぁ、親方、俺達先に休ませて頂きます。」
「ああ、おやすみ。」
「所でグレン、お前さんはまだ此処に居ていいのかい。」
「すいません。親方達との話が楽しくて、帰りそびれて居ました。今から、まだ少しやる事があるので、僕も失礼させて頂きます。では、おやすみなさい。」
「ああ、グレンも、いろいろ頑張れよ。おやすみ。」
「ありがとうございます。」そう言って別れると、屋敷に向かった。
屋敷に着くと、コランさんが待って居てくれた。
「お帰りなさい。市場の店主達が売残った食材を持って来ています。此方です。」
「かなり沢山残って居ますね。コランさん、此れだけ残った原因は分りますか?」
「恐らく、今迄より少し高くなったのが原因ではないか。と思います。」
「そうですか。何か食材が高くなる原因が在りましたか? 私が気付いて居ないだけで作物の不作とか? それとも今回の工事で、各村々から人員を集めたせいで、人手不足に陥ったとか?」
「イエ、全て違います。申し上げ難いのですが、領主様の大量購入と、売残った食材の全量買い取りが原因と思われます。」
「どう言う事なんだ?」
「そうですね、通常は毎日、売れ残った食材は、店主が廃棄料を、業者に支払い処分して貰っているのです。」
それで、店主達は廃棄料を払って迄、処分する位なら、少しでも安くして、領民に買って貰った方がいいと、夕方近くになると、仕入価格に乗せる儲けを下げて、販売していたはずです。」
「そうか、僕が廃棄する予定の食料品を全て買い取る事で、店主の皆さんは、安く売る必要が無くなった訳なんですね。」
「そうですね。」
「所で、その廃棄料とは、どの位掛かるんですか?」
「以前、この屋敷のシェフに聞いたことが有るんですけど、銅貨一枚らしいです。」
「銅貨一枚?それは、どれ位になるのだろうか?」
「そうですね、銅貨一枚だと、パンが二個買えますよ。」
「前世で言うと、二百円位だろうか? 一日販売する分の商品全部に、二百円分の売上を上乗せするだけで、こんなに沢山売れ残るものなのだろうか?」
「申し訳ありません。私は二百円が何か分かりませんが、今回の上乗せは、銅貨一枚分では在りませんでした。通常価格の三割を上乗せした価格でした。」
「三割の値上げですか? 急にそれだけ食料品の値段が上がると、買い控えが起こるだろうし、それだけじゃなく、実際に食べられない人達も出て来るだろう。そうなれば、景気も停滞してしまうだろう。これどうすれば価格を元に戻す事が出来るのだろうか?」
「それと、此れだけの食料品は動物達の分ですよね。」
「そうです。所で、万が一にも、割増価格を付けて来た店主には、今後の取引はしないと伝えて貰う事を頼んだ。と、思っていたのですが伝えて頂けましたか?」
「イエ、伝えて居ません。」
「何故?」
「そもそも、この販売価格は、今朝、市場が開いた時には、既にこの価格で販売して居たのです。なので、私はこの価格は正当な価格と考え、買い取りしました。」
「そうですか、私が間違って居ました。領民に販売した価格と同額って事は、私にだけ割増で払わせようとした不当な値上げではない。と言う事ですね。」
「はい。それと、この食材の買取金は、ケイト様と、リリアさん、ケリー君とも話し合い、グレン様の個人資産で購入しないと判断致しました。
理由は、この食料品を食べる、動物達はこの辺境伯領の為に働いてくれて居るので、領地維持のための必要経費とさせて頂きます。」
「いいの? かなりの額になると思うけど、それに、今からどれだけの支出が有るか、僕では検討もつかないんだよ。」
「大丈夫です。ケイト様御夫妻とリリアさんはおおよその金額の算出をされ、この領地から上がって来る税で賄えそうって言って居ましたが、 一応ケイト様とデイトス様の個人資産をお借りさせて頂くお約束は出来ております。但し、金利は発生します。それでも足りない時の、最後の一手でグレン様の個人資産を出して頂きます。」
「ん……!? コラン、おかしくないですか、どうして僕の個人資産が最後の一手なんだ?」
「ケイト様から言って頂いたのは、ケイト様とデイトス様からお借りした分は、この計画の利益が出始めてから、運営に支障が出ない額を、分割で返済すれば良い。と言われました。
但し、グレン様の個人資産は、万が一この辺境伯領で、何かが起こった時、民のために直ぐに動かさなければならないお金。だそうです。同じ個人資産でも、時と場合によっては、お金の価値は違うんだ。と、お聞きしました。」
「コラン、ありがとう。良くわかったよ。」
「それと、リリアさんが、グレン様は、私に相談なく、ポンポン物事を決めてしまって~。と、お怒りでしたよ。笑って居ましたが…‼ リリアさんに明日怒られて下さいね。」
「分かりました↷。今更だけど謝って置きます。所で、市場の件だけど?」
「何か、良い案が浮かびましたか?」
「明日の朝、市場が開く前に、こんな張り紙はどうだろう?」
先日、屋敷に集められた、食材の残り物が多過ぎて、屋敷や工事現場で使い切ろうとしましたが、一部の食材が残ってしまいました。
折角皆さんが丹精込めて育てたのに、申し訳ない気持ちで一杯です。
今後この様な事にならないために、此方で事前に調べた、正当な売値で販売した店で残った食材を全て買取ります。仕入れ価格が分かる物を一緒に持参して下さい。
これで、どうだろ
「そうですね、卸売業者と結託する店主も出て来る可能性がありますが?」
「それは、大丈夫だ。彼等の周りには、多くの目が光っているからね。」
「そうでした。頼もしいお仲間が居ましたね。」
「ああそうなんだ。それじゃぁ、明日から鼠君頼んでいいかい?」
「任せてくれ、一つの商店に一匹ずつ、仲間を張り付かせて置くよ。」
「ありがとう。頼んだよ。」
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