第8話
「これなんだ? どうにかならないだろうか?」
「これは酷い、ちょっと待っていてください。」
僕は治療に必要な水と包帯を準備し、治療開始した。傷口を水で綺麗に洗い、切り落としてしまった指を、間違わ無いように付けると、包帯を巻き、包帯を巻いた手を僕の両手で優しく包み込んだ。すると淡い光が彼の包帯を巻いた手を包み込んでいるように見えた。
「グレン、此れはどういう事なんだい。」と、ソフィアさんは驚いたように見ていた。
「僕にも分からないんです。どうですか?痛みますか?」
「痛みは引いたみたいだ。痛くなくなった。」
「このまま、一晩様子を見て居て下さい。もし次に痛くなった時はご主人様にお願いしてください。」
「分りました。」
僕は、バスケットのお礼を伝え、その後暫く三人で話して居たが、包帯を取りたいと言う息子さんの言葉を聞き、包帯を外して見ると、ソフィアさんとドランさんは腰を抜かさんばかりに、驚いていた。斬り落としていた指がちゃんと付いて動いているのだ。
ドランさんと、ソフィアさんは手を握り合い泣いていた。
この指ではもう此処で働くのは無理だろう。と、諦めながら此処に来た。と言っていた。
ソフィアさんは、ドランが斬り落とした指を持ち、慌てて訪ねて来た時。真っ先に僕の顔が浮かんだそうだ。他は何も考えられずそのまま息子さんと走って来たと言っていた。
暫くすると、ドランさんが、まだ仕事が残って居るからと、ソフィアさんと一緒に帰って行った。
♢ ♢
その後僕は、鼠達の案内で、ケイト様のお部屋を訪ねると、ケイト様御夫妻と、デイトス様のご家族三人が待って居てくれた。
「所でグレン、君を、ここの厩に住まわせたままでは申し訳ない。私の屋敷に部屋を準備した。其処に移って貰えないだろうか?」
「デイトス様ありがとうございます。感謝申し上げます。只、私の傍には多くの鼠や、モグラ達小動物が訪ねて来ます。なので、出来れば、厩がいいのですが、それに、あまり長居するつもりは無いので、此方での用件が済み次第、私は、退散させて頂きます。」
「そうか、残念だ。」
「そう言って頂けて、有難いです。」
「では、本題に入ろうか。」
「はい、では、私が知って居る事を全てお話いたします。」そう言うと、温泉が湧く洞窟の前で、見たことや聞いたことを全てお話した。
そして洞窟から拾って来た、数個の鉱石を出してテーブルの上に並べて置いた。
ケイト卿は静かに話を聞き終えた後、
「良く解った。彼等の様子がおかしいと思い、身辺を色々調べて見たんだが、中々証拠が掴めなかった。此れで漸く辻褄が合った気がする。」
と、答え合わせが終わって安心したお顔をされていた。
ケイト様の奥様シルビア様は、お顔の表情から、かなりおつかれのご様子が見えたので、ケイト様にシルビア様のお手を触れる許可を頂き、右手を両手で包み込み癒した。すると、今迄お顔の表情が優れなかったご様子から、笑顔が溢れて来た。
次にジェシー様が口を開かれた。
「グレン、この前はスージーの魂を癒してくれてありがとう。何が有ったか、聞いてくれる?」
「はい。私が聞いてよいのであれば、お聞かせ下さい。」
「全て私がいけなかった事なの。私は五歳で、その時スージーは十二歳で行儀見習いのために、私の侍女として此処に来たの。私はお姉さんが出来たみたいでとても嬉しかったのを覚えているわ。ある日お父様がお出掛けになる時、一緒に着いて行きたくて、みんなに止められるのも聞かず、急いで追いかけたの。その時何も知らず、私のお茶を準備して抱えて来た所に、私がぶつかってしまったの。スージーは悪くない、わるいのは私だった。でもスージーは私の顔の傷に責任を感じて、ずっと私に尽くしてくれていたの。だけどそれから六年位たった頃に、スージーが、この屋敷に来る前からずっと、想いを寄せていた公爵家の跡取りライオス様から望まれての縁談が持ち上がったわ。彼女は私への責任とライオス様への想いが断ち切れなくてとても悩んでいたの、でも私は、それを喜んであげられなかった。私があの時一緒に笑って上げられれば、スージーにおめでとう。と、言ってあげる事が出来さえすれば、彼女はあんな最後を迎える事は無かったのに。」と、ジェシーさまは嗚咽を漏らしながら泣き出してしまった。
そんなジェシー様をデイトス様は隣で肩を抱き寄せてしっかり支えていた。
「そうだったんですね。ジェシーさまもずっとお辛かったですね。それでは、ドロミテ様をこれ以上不幸にしてはイケませんね。」
「グレン、それはどういう事だい?」
「恐らくですが、ドロミテ様とリバー様はバーム卿に操られて居ると思います。お二人共 心の隙に付け込まれたのではないでしょうか?」
「心の隙か…?」
「餌とも言いますが、美味しい物があれば、人間は、かなりの確率で靡くと思います。」
「美味い話か…?リバーはこの辺境伯領主の座だろうが、ドロミテ卿は何だろう?」
「ドロミテ様には、病弱で長年床に着いたままの長男の方が居られるようですね。」
「ああ、確かスージーの2歳上の長男が居た筈だ。」
「ドロミテ様はその長男さんに代わってライオス様とスージー様のお子様を養子に迎え、跡取りにする予定だったようです。そして養子縁組が無事終わった所で、子爵から王都の伯爵家の地位を授かる予定になっていたようです。その根回しもドラ―公爵が終わらせていたようです。そして、バーム様はドラ―公爵家に、採掘されたミスリ鉱石を半分渡し、バーム伯爵家からさらに公爵家となる準備が整っていた様です。」
「何と、グレンそれは本当かい、何故私達貴族が知らない、間違えれば国が傾きそうな重大な策略を知っているんだい?」
「あの日森から帰って行った、三人の跡を追った、烏と鼠から教えて貰いました。」
「そんな、それじゃぁ、スージーは只の家の道具じゃないの。そんな事……」
「そうですね。もしかしたら、スージー様はその策略全てを、ご存知になられたのかもしれません。」
「それじゃあ……‼」
「あの朝、お墓でスージー様を癒した時、彼女の魂からは、ジェシー様に対しての優しさしか感じませんでした。」
そう、話した時ジェシー様はまた泣き出してしまった。
「今度また、二人でスージーのお墓にお参りしよう。」
とデイトス様はジェシー様の肩を抱きながらお約束されていた。
「何という事だ、爵位を金で買おうなどと。絶対許される事ではない。」
と、話を聞いたケイト様は怒りを露わにしていた。
「父上、私も実家に彼等の裏工作について調べるように頼んでおきます。」
「悪いがそうしてくれ。頼んでおくよ。」
「はい。」
その翌昼、辺境伯邸に出勤したリバー執事は、いつもの様にソラン元領主執務室に入ると、昨日迄病で臥せっていたケイト様は執務室の机で調べものをしていた。
「リバー、君は出勤せずに朝から今迄、何処に行っていたんだ?」
「はい、ケイト様の体調がまだ万全では無いので、まだお部屋でお休みになられて居ると思いギルドや市場の調査に行っておりました。」
「そうか、気を遣わせて悪かったな、明日からは私が出向くとしよう。」
「いえ、まだご無理はされない方がよろしいのではないでしょうか?」
「構わんよ。体調はすこぶるいいんだ。それで、ギルドや市場の様子はどうであった?」
「はい、ギルドはいつもと様子は変わらず、市場の商品は品質も良く、価格も安定して居て、市場は活気付いていました。」
「そうか、それは何よりだな。それより、朝からデイトスがリバー、君を探して居たが、もう会ったかい?」
「イエ、まだ、デイトス様にはお会いしてはおりません。」
「ならば、早く訪ねてやってくれ。何か頼みたい事が有ると言っていたが?」
「承知いたしました。では、直ぐにデイトス様を訪ねます。失礼いたします。」と、リバーは部屋を出て行った。
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