第4話

「もう大丈夫、みんな居なくなったよ。」と鼠が教えてくれた。

「それと、今出て行った三人の後を烏と鼠が着けて行ったよ。」とクロが教えてくれた。

 その言葉で、漸く僕は立ち上がる事が出来た。

 しかし、凄い計画を聞いてしまった。

「先日森でのソラン辺境伯襲撃事件は、野盗に仕業じゃあ無かったんだね。」

「そうだね、僕も、まさか領地の乗っ取りを企んだ者達の仕業だったとは思わなかったな。」


「所でグレン、此れからどうする?」

「そうだね、今の話は聞かなかった事にすればいいんだろうけど、一度出会ってしまった人達だから、彼等に何か有った時、後味が悪い気がする。一度、ソラン辺境伯領を訪ねて見る事にするよ。だけどその前に、今彼等が話していた、ミスリル鉱石が見つかったと言う洞窟を見て置きたい。」

「所で鼠君。その洞窟が何処に有るか知っているなら教えて欲しんだけど。」

「ちょっと待って探して見る、僕で答えられればいいけど。」

「分からない時は僕に聞いて。」

「クロは、何処に有るか知って居るの。」

「うん、知ってる。」

「じゃぁ…⁉」

「でも、折角だから、此処は鼠君に任せよう。」


「でもこの領地の洞窟で、五年も前にミスリル鉱石が見つかった事を、何故領主様達は知らないんだろう。それと、最後に入って来た、バーム卿はこの領地の貴族じゃ無気がしたんだけど。」

「そうだね、確かに、バーム卿は王都の貴族だよ。それと、ミスリル鉱石についての事なんだけど、この王都の領主達は、毎年持ち回りで、王国の貴族達を招いて狩猟大会をしているんだ。それが、この領地で五年前に開催されたんだ。その時先程の三人がこの洞窟に猪を追い詰めたんだよ。無事に狩りは成功。そしてミスリル鉱石を発見したんだ。それを自分達の物にするために、洞窟の入口を倒木やツタなどで隠し秘密にしたって訳さ。彼等、特にバーム卿が急いでいるのには、訳があるのさ。又三年後には次の狩猟大会がこの地で開催される予定だからね。」

「そうなんだ、それよりも、クロはやけに詳しいね。」

「その時、彼等と一緒に居た猟犬は、僕だったからなんだ。」


 それならば、この事は、すぐにデイトス様に伝えるのが賢明だろう。

この時、今迄野盗の探索に出ていた一匹の鼠が、烏に抗議しながら帰って来ていた。

「カラスくん僕の尻尾を咥えて空を飛ぶのをはやめて貰えないかい。尻尾が千切れそうでお尻が痛いんだ、それにぶら下げられて飛ぶのは、とても怖かったんだ。」

「ゴメンゴメン、それならどうやって鼠くんを連れて行くんだい?」

「カラスくんの背中に乗せて欲しんだけど。」

「分かった。此れからそうするけど、僕の背中に爪を立てるのだけはやめてくれるかい?」

「分かった、僕も気をつけるよ。」

 みんな笑いながら、鼠君の抗議を聞いていた。

 その鼠と烏から、先程聞いた話と同様の報告を受けたが、まだ何か企んでいるらしく、他の鼠と烏が残って、調べている。との事だった。


「それじゃぁ、今から洞窟に僕が案内するよ。付いて来て。」

「分かった。鼠君頼んだよ。」

 鼠は暫く、立ち上がったり、地面に鼻を付けたりしながら、鼻をクンクンしていたが、

「こっちだ、付いて来て。」と急に走り出した。

 暫く森を進み、木々の間の茂った藪を抜けると、洞窟の入口が顔を出した。

「鼠君此処が、良く解ったね。」

「何故か此処から、さっきの人間の匂いがしていた。クロも解っているんだろう。」

「ああ、この奥にあいつ等の匂いが残って居るよ。」

「みんな凄いね、僕には分からないよ。」

「さあ、奥に入ってみよう。」

 洞窟の中は意外にも、薄暗いが歩きやすかった。

「窓や、外から明かりが漏れている気配は無いのに、何故か歩きやすいね。」

「光り苔を蒔いているからじゃないかな。その光で鉱石も光るからだろうね。」

「そうなんだ、鼠君は物知りだね。それじゃぁ、此の光っている石が、ミスリル鉱石なんだね。」

「そうだろうね。僕らは食べられない物には、あまり関心が無いんだ。」

「そうだよね、ちょっと待って鉱石の欠片を拾うから。」

 鉱石の欠片数個を拾い、元来た道を戻った。

 あの洞窟は、温泉の有る洞窟から三十分位の所に有ったみたいだ。


「所でグレン、食べる物まだ持っている?」

「ああ、まだ残ってる分は有るけど、沢山要りそう?」

「ちょっと仲間を呼ぶね、さっきの洞窟を守らせて置こうと思って?」

「分かった、それじゃぁ全部出すから、待てて、此れで足りるかい?」

「十分さ。みんな集まって。」

 鼠君がそう叫ぶと、何処から集まって来たのか。鼠達以外で、蛇や猪に猫、カラスや鷲までいた。

「これじゃぁ、足りないんじゃないの。」

「十分だよ。」

「それよりも、蛇や猫って、鼠君の敵じゃぁなかったの。」

「敵では無いよ。まあ、中には不届きな輩も居るけど、そういう輩はより強い奴等に粛清される。そうやって自然にバランスが保たれているんだよ。」

「そうなんだ。」

 そう話しているうち、みんな食事が終了し、話し始めた。


「俺達、グレンの噂は鼠達から聞いていたんだ。まさか本当に会えると思って居なかったから凄く嬉しいよ。それで、俺達は何をしたらいいんだ?」

「この先に有る、光り苔が生えた洞窟に、グレン以外の人間が入って来た時は容赦なく追い出して貰いたいんだ。但し殺してはいけないよ。グレンが困る事になるから。」


「分かった、俺達に任せてくれ。」

「この種は鳥の俺達が撒いて置くよ。それと名前を付けてくれると嬉しい。」

「ゴメン、みんな番号だけどいいかい?」

「構わないよ。」

 それなら。と、またみんなに昨夜の続きの番号を付けて行った。

 するとみんなで、何処を守るか話し合いそれぞれの持ち場に向かって行った。



         ♢ ♢


「それじゃぁ、クロ頼んでいいかい?」

「分かった。それじゃあ、僕の背中に乗って、辺境伯様のお屋敷に、連れて行ってあげる。」

 クロの背中に乗ると、鼠は直ぐに僕の服のポケットに入って来た。クロは走るスピードを上げながら、走るとスピードを緩め、丘の上で立ち止まった。


「グレン、あれがソラン辺境伯様の治めている街だよ。今から向かうのがあの町の奥に見える大きなお屋敷、あれがそうだよ。」

「そうなんだ、僕なんかが、あのお屋敷に入れて貰える気がしないよ。」

「大丈夫だよ。」

 クロにそう言われ、僕はそのままクロに乗って辺境伯領の町の入口近くの街道まで来た。

 クロから降り、みんなで町に入ると、町から追い出されてもいいように、先に必要な食料や日用品それと着替えなどの買い物を市場で済ませた。

 市場おじさんに店の裏を借りて着替えると、先程丘の上から見えた、辺境伯様のお屋敷を訪ねる事にした。


 お屋敷の前まで来ると、鎧を来た怖そうな門番に取り次ぎをお願いしてみた。

 最初は僕の事を何処の小僧だ、と言う感じで見て来たが、奥の控え室に居る人に伝えてくれた。

 すると奥で話を聞いた方は、直ぐに出て来ると、門を開けてくれた。

「グレン君ですね、デイトス様からお話は伺っております。此方へどうぞ。」と言い、お屋敷に案内してくれた。

 調度品は高価だが、落ち着いた雰囲気の応接間に案内された。

「やあ、グレン良く訪ねてくれたね。あのまま訪ねてはくれないんじゃないか?と、心配していたんだ。本当は、君を待って居たんだ。ありがとう。」

「ありがとうございます。私は、少々お伺いしたい事が有りまして、此方に寄らせて頂きました。」

「聞きたい事とは、何だね?」

「此方のお屋敷に、病気になられたケイト様はいらっしゃいますか?」

「グレン、何故その事を知って居るのだい?屋敷の者でも、極一部の者しか知らないはずだ?」

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