第6話 辺境伯の娘、王弟殿下と再会する
王城でお妃教育を受けて一週間。ほぼ毎日同じことの繰り返し。テーブルマナー、カーテシー、顔の作り方、歴史・絵画などの教養、ダンス、歩き方。私は毎日同じことを言われ続けた。
繰り返すことで身に付き、自然と振る舞えるようになる。だから飽きている場合ではありません、と注意を受けながら。
成長していると思いたいけど、自分ではわからない。先生に叱られてばかりだから。
どうしても顔や行動に、感情が出ちゃうんだよ。嬉しかったからわーいって喜びたい。悲しい、悔しいときは泣きなくなる。
人としてあまりまえじゃないの? って思ってるんだけど、どうしてレイヤ先生は出し過ぎたら注意するんだろう。
王族も感情出てるよ。
王母マリールイス様と王妹リーズベット様は、ダンスを見に来てくすくす笑っていた。扇で口を隠していたけど、肩が震えてるし声も漏れてたから、ばればれなんだよね。
あれは注意しないんだね。
やりにくいけど、入室禁止なんて私は言えないし。自室に来ないだけましだと思うしかない。
さんざん笑われて、嫌な気持ちの状態でダンスが終わり、部屋から出ようとしたら、先生に呼び止められた。
「本日の夕食は、リクハルド様とご一緒におとりになってください」
「え?! リクハルド様と一緒に?」
ご褒美だ。一週間頑張ったから、ご褒美をもらえたんだ。
四年振りにリクハルド様に会えると思うと、嬉しいのと恥ずかしいのとで、胸がどきどき激しく高鳴る。
リクハルド様は私のことを覚えてくれているかな。たくさんお話をしたんだから、忘れているわけないよね。
「わたくしは付き添いませんが、この一週間お教えしたことを思い出して、わたくしがいると思って食事をなさってくださいませ」
「はーい」
「そのように間延びしたしたお返事はいけません」
レイヤ先生に返事をしながらも、私はほとんど聞いていなかった。だってリクハルド様に会えるんだもん。
たくさん汗を流したから、いつもよりしっかりと体を洗ってきれいにした。
ヴァルマが用意してくれた夜の会食用ドレスに身を包み、髪もかわいく結ってもらって、食事をする部屋に向かった。
ちなみに、私は自室とダンスルームしか往復していないので、それ以外の部屋はまったくわからない。食事は自室、浴室は自室と繋がっている。
部屋の窓から見下ろすと、広い庭園が真下にあって、出たいなと思っているんだけど、まだ叶っていない。
花が咲いていて、手入れをしている庭師の姿が見えて。まるでサーラスティにいるような感覚になる。癒しの時間だった。
到着した部屋で待っていると、ノックされて、リクハルド様の到着が告げられた。
私は立ち上がり、出迎える。心臓が弾みすぎて、飛び出してきそう。
ゆっくり扉が開いて、そのお姿が見えた。
17歳になられたリクハルド様。四年前、まだ子供っぽさの残っていたお顔は、精悍な青年のそれになっていて、高かった背はさらに伸びている。ほっそりしていた身体も大きくなっていて、鍛錬なさっているのがよくわかった。
長い金髪は健在で、艶やかさが増している。
見惚れてしまい、あやうく挨拶を忘れそうになる。そんな不手際は許されない。
私だって自分が嫌だ。リクハルド様に見ていただきたくて頑張っているんだから、この一週間の成果をお見せするとき。
「王弟殿下。ご無沙汰しております。クリスタ・サーラスティでございます。この度、王弟殿下のお妃候補に選んでいただきましたこと、一族を上げて大変喜ばしく思っております。王弟殿下にふさわしい人になるよう、研鑽を積んでまいります。以後よろしくお願い申し上げます」
席に着いたリクハルド様に向けて向上を述べたあと、膝を深く折った。
どうだろう。失礼にならない挨拶ができただろうか。
リクハルド様は小さく頷いただけ。お言葉をかけてもらえなかった。
失敗した? だめだったかな?
でも不機嫌ではないご様子。
座っていいのかわからなくて立ちつくしていると、
「座っていい」
やっと一言もらえた。
失礼いたしますと断って、腰を下ろす。
アミューズが運ばれてきて、リクハルド様との会食が始まる。
次に前菜。スープ。魚料理。軽めの肉料理。
いつ話しかけられても対応できるように、小さめに切って食べる。
リクハルド様も黙々と食べている。
あまりじろじろと見ているのは失礼だけど、所作がすごくきれいなので、つい目がいってしまう。
次の料理が運ばれてくるまでに会話があるのかと思っていたけど、話しかけてくれない。私から話しかけていいものか、悩むところ。
ソルベで口直しをして、メインの肉料理とサラダ。デセールがくるまで一言も話さず進んでしまった。
アイスと一口サイズのケーキが載ったお皿は、お花畑のように彩られている。
「盛り付け、すごくかわいいですね」
デセールの盛り付けがすごくステキで、思わず話しかけてしまった。
あ、と思ったけれど、まあいいやとすぐに切り替えた。叱られてもいい。ステキなものを見て思わず口に出でしまうほど心が動いたんだもの。
「甘い物は好きか」
わくわくしながらケーキを口に入れた瞬間、声が聞こえた。少しぶっきらぼうで、低いけど低すぎなくて。私は覚えてる。リクハルド様の声を。
急ぎめに飲み下して、「はい」と頷く。
「お腹はいっぱいですけれど、甘い物は別腹と申しまして、いくらでも入ります」
正直に伝えると、リクハルド様はふっと笑った。
その笑い方も覚えてる。口の端が少し上がって、目がすごく優しくなる。
あの日、たった数時間話をしただけで、その後は全然会わなかったけど、私はリクハルド様のこの表情が印象に残っていた。
「四年前、リクハルド様とお菓子をいただきながら、たくさんお話をしたのを覚えております。田舎者とバカにされていた私を助けくださって、ありがとうございました。片時も忘れたことはありません」
やっと言えた。会えたらお礼を伝えようとずっと思っていた。
懐かしいな、とか別に助けたわけじゃない、とかどんな言葉をくれるのかなと想像した。
「なんのことだ。俺は覚えていない」
へ? イマ、ナント、イイマシタ?
「甘い物が好きなら俺のデセールも食べていけ。仕事が残っているからこれで失礼する」
言葉の意味が理解できず、私が呆然としている間に、リクハルド様は席を立ち、部屋を出て行ってしまった。
次回⇒7話 辺境伯の娘、落ち込む
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